課題「Imperfection」が求めたもの

この部門の課題は「Imperfection(不完全さ)」でした。公式の課題文では、すべてを完璧に整えすぎると、表現から創造性が失われることがあると説明しています。そのうえで、人間の不完全さや矛盾、実体験をAIで消すのではなく、作品の一部として生かすことを応募者に求めました。

応募できる形式は、映像、モーショングラフィックス、アニメーション、ポスターの四種類です。Dreamina AI(ドリーミナ)は、この課題に取り組むための主な制作ツールとして位置づけられていました。テキストや画像から動画・静止画を生成できるツールで、公式サイトはdreamina.capcut.comで公開されています。

課題文からは、「AIで欠点を隠す」使い方ではなく、「不完全さを主題にしたAI表現」が募集軸だったことが読み取れます。結果として11作品の受賞作は、いずれも滑らかで整った映像ではなく、揺らぎや誇張、崩し、違和感を残した表現が並びました。

初代Gold Cubeを受賞した『Ivory』

『Ivory』は、北京を拠点とするXīnxīn LǐとDonglin Chengが制作した約5分半のアニメーション作品です。AI Visual Design–Dreamina AI部門のFirst PlaceにあたるGold Cubeと、賞金6,000米ドルを獲得しました。

作品は、職場で笑顔を求められる男性が、歯の治療をめぐって次第に異様な出来事へ巻き込まれていく物語です。人物の表情や身体は大きく誇張され、場面ごとに色調も大きく切り替わります。整いすぎていない人物の描き方や、予想外の方向へ進む展開は、部門の課題である「Imperfection」の解釈と重なります。

映像は写実的なアニメーションではなく、油絵や粘土細工に近い質感の画面が続きます。動きの手触りやカットの切り替え方に個別の判断が積み重ねられており、AIで生成した素材をそのまま並べた作品とは印象が大きく異なります。

公式動画で見る『Ivory』

The One Clubの受賞発表には、『Ivory』の全編映像へのリンクが掲載されています。笑顔を強いる職場、歯の治療を勧める友人、治療後に変わっていく主人公の姿を追うと、Wesley ter Haarによる講評が何を評価しているのかを具体的に確認できます。以下の動画は、公式発表からリンクされているGold受賞作の全編です。

動画:The One Club for Creativity 公式チャンネルより引用

公式講評を三つに分けて読む

審査員を務めたMonks共同創業者のWesley ter Haarによる講評を、内容に沿って三つに整理すると次のようになります。

  • 物語の見せ方が際立っていること
  • AIを含む制作技術を使い、見る人を引き込む映像に仕上げていること
  • AIを使った作品でも、制作技術が作品の中核にあること

講評では、物語の見せ方、映像が持つ魅力、制作技術の三点が評価軸として並びました。特に「AIを使った作品でも制作技術が中核にある」という表現は、AI生成そのものを称賛するのではなく、素材を選び、順序を組み、テンポを整える人間側の作業を評価軸に置いたことを示しています。この見方は、続く制作者自身の説明ともつながります。

制作者は制作途中で脚本を練り直した

制作者のXīnxīn Lǐは、当初の絵コンテに固執せず、Dreamina AIを使う過程で得た新しい発想をもとに脚本を修正したと説明しています。完成した映像については、独自の映像美を備え、編集のテンポまで細かく組み立てた作品に仕上げたと振り返りました。

この発言は、生成物をそのまま採用するのではなく、生成の途中で得た手応えを脚本に戻す往復作業があったことを示唆しています。ただし、この発言はGold受賞者自身による制作の説明であり、部門共通の採点基準ではありません。Silver以下の作品にも同様の工程があったかどうかは、公式発表には記載されていません。

Gold、Silver、Bronze、Meritの受賞結果

受賞作はGold 1作品、Silver 3作品、Bronze 6作品、Merit 1作品の計11作品です。

制作者 作品名 賞金
Gold Cube Xīnxīn Lǐ、Donglin Cheng Ivory 6,000米ドル
Silver Cube Anne Horel La Tisseuse d'Ombres(The Shadows Weaver) 4,000米ドル
Silver Cube Jason Peng Perfect Place 4,000米ドル
Silver Cube Park Zhi Red Pill 4,000米ドル
Bronze Cube Chén Kūn Ordinary Anthem 2,000米ドル
Bronze Cube Serhii Kostenko Trained on Perfection 2,000米ドル
Bronze Cube Xingchen Ding The Joyful Pasture 2,000米ドル
Bronze Cube Dorothy Pang Love Hotel 2,000米ドル
Bronze Cube Tāozé Cài Bad Traveling 2,000米ドル
Bronze Cube Yongning Zhang Big Eyes Town 2,000米ドル
Merit Hongye Liu(Yea野了) HONG KONG LOADING… 公式発表に記載なし

The One Club公式発表に掲載された受賞一覧

画像:The One Club公式発表の公開画面(引用)

公式発表では全11作品への動画リンクを確認できます。ただし、Silver、Bronze、Meritについては、Goldと同じ形式の個別講評や制作工程が掲載されていないため、作品ごとの受賞理由は公式情報からは断定できません。作品名を手がかりに、それぞれの映像を直接確認する形になります。

ADC 105th全体における位置づけ

AI Visual Design–Dreamina AIは、ADC 105th Annual Awardsのなかに新設された部門です。ADC 105th全体では39の国・地域から668のファイナリストが選ばれ、広告、デザイン、写真、イラストなど幅広い分野が審査されました。

『Ivory』はAI Visual Design–Dreamina AI部門のGold Cube受賞作であり、ADC 105th全体の最高賞ではありません。ADC全体の頂点にあたるBlack CubeやBest of Disciplineとは区別されます。この点を混同すると、「ADCの最高賞をAI作品が獲った」という誤読になりやすいため、部門レベルの受賞であることは注記しておきます。

AI作品コンテストの流れのなかで見る

AI作品を対象にしたコンテストは、複数の主催者から相次いで結果が公表されています。ADC AI Visual Design–Dreamina AI部門は、そのなかで既存の広告デザイン賞が新設した部門という位置づけになります。個別のツール主催コンテストや、既存広告賞のAIクラフト部門など、判定軸や賞金設計はそれぞれ異なります。

ブランドや制作会社が見るポイント

この部門の受賞傾向は、ブランドや制作会社がAIクリエイティブを検討するうえでいくつかの示唆を含みます。第一に、既存の広告賞・デザイン賞が「AI専用部門」を独立して設けはじめている点です。既存の映像部門と切り分けて評価する枠組みが定着すれば、AI作品の受賞が別トラックの実績として扱われる時期に入ります。

第二に、Goldの講評が「AIを使った作品でも、制作技術が中核にある」と明記した点です。生成そのものよりも、素材選択・構成・編集テンポといった人間側の判断が評価軸に据えられました。生成AIを使うかどうか自体は差別化にならず、扱い方の熟度で結果が分かれる方向を示しています。

第三に、Dreamina AIのように主催者側が指定ツールを冠する部門形式が実装された点です。ツール主催コンテストと既存賞が接続する形は、他ツール・他広告賞にも広がる可能性があります。

公式情報

よくある質問

Q1. ADC AI Visual Design–Dreamina AI部門とは何ですか? A. The One Club for Creativityが主催するADC 105th Annual Awardsに新設された、AIを主要な制作手段とする作品を対象にした部門です。Dreamina AIが主な制作ツールとして位置づけられ、映像、モーショングラフィックス、アニメーション、ポスターの四形式で応募が受け付けられました。

Q2. 初代Gold Cubeを受賞したのはどの作品ですか? A. Xīnxīn LǐとDonglin Chengによるアニメーション『Ivory』です。約5分半の作品で、賞金は6,000米ドルでした。全編映像はThe One Clubの受賞発表ページからリンクされています。

Q3. 課題「Imperfection」はどのような意図ですか? A. 公式の課題文は、すべてを完璧に整えすぎると表現から創造性が失われることがある、と説明しています。人間の不完全さや矛盾、実体験をAIで消さず、作品の一部として生かすことを応募者に求めました。

Q4. 受賞作は全部で何作品ありますか? A. 計11作品です。内訳はGold Cube 1作品、Silver Cube 3作品、Bronze Cube 6作品、Merit 1作品です。Meritのみ賞金は公式発表に記載がありません。

Q5. Silver以下の受賞理由も公式に説明されていますか? A. Goldと同じ形式の個別講評や制作工程は、Silver、Bronze、Meritには掲載されていません。作品名と受賞者名から公式ページ経由で各映像へアクセスし、直接確認する形になります。


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