AIクリエイティブディレクターとは
本記事でいうAIクリエイティブディレクターは、AIを使う制作全体の方向を決め、複数の専門職をまとめる役割です。企画で伝える内容と変えてはいけない条件を整理し、AIに任せる作業と人が担当する作業を決めます。生成した案を比べ、採用する案と修正内容を制作チームへ示すところまでを担います。
セプテーニと電通ダイレクトの発表では、AI Centric CDを中心に、AIツールと専門人材を組み合わせて制作を進める体制が示されています。博報堂プロダクツのAI Craft Studioも、クリエイティブディレクターやプランナーが物語と表現の質を組み立て、生成AIの操作に詳しい専門職と協働する体制を採っています。
つまり、モデル操作だけでは成立しません。商品やブランドが何を伝えるかを先に決め、案を選ぶ基準を示し、全員が同じ方向で制作を進められるように調整することが仕事です。

AIクリエイティブディレクターが企画から公開前確認までに担う仕事を、AIGC TIMES編集部が公式事例を基に整理しました。
7つの役割
1. 企画の狙いを一文で決める
最初に決めるのは、どのAIを使うかではありません。誰に何を伝え、見た人に何を理解してほしいのかを一文にします。ここが曖昧なまま生成を始めると、完成度は高くても企画に合わない案が増えます。
依頼内容には、必ず伝える情報、変更できない事実、試せる範囲、採用しない条件を入れます。生成担当や制作会社が判断を確認できるよう、企画の起点を常に明示しておきます。
2. 表現の基準を具体的にする
「ブランドらしく」「上質に」という言い方だけでは、担当者ごとの解釈がぶれます。過去事例を示すだけでなく、今回の案件で守るべき基準と、許容する変更範囲を先に言語化して共有します。
博報堂が紹介した日清のどん兵衛「はいよろこんで 利き利きどん 篇」の制作事例では、ブランド側と制作側が課題や訴求点を共有し、言葉、演出、構成を検討しています。基準を言葉にするのは、プロンプトを書くためではなく、企画と表現の狙いを制作チームへ共有するためです。
3. 人とAIの分担を決める
AIに任せる工程は、案件ごとに変わります。企画初期の試作、絵コンテ、素材の修正、複数案の展開など、元資料や採用基準と照らして効率が出る箇所から使います。一方、商品情報の最終確定、第三者権利の確認、採否判断、公開承認は、企業側の決裁・実務ルールに従って人が担います。
博報堂プロダクツは、複数の生成AIを扱う専門職として「ジェネレーター」を示し、クリエイティブディレクター、プランナー、ビデオグラファー、レタッチャーなどと組み合わせる方針を示しています。「ジェネレーター」は同社の職種名であり、業界共通の正式名称ではありません。AIクリエイティブディレクターは全作業を一人で行わず、案件に必要な専門職を選び、担当範囲を設計します。制作体制そのものをどう組むかは、AIクリエイティブ制作体制の設計で扱っています。
4. 生成する案の数と比較方法を決める
生成AIは短時間で候補を増やせますが、案が増えるほど選ぶ仕事も増えます。電通デジタルのクリエイターも、AIが多くの案を出し、人が良し悪しを判断して選ぶという分担を説明しています。
そこで、何案まで作るのか、誰が一次選定するのか、どの項目を並べて比べるのかを先に決めます。比較項目は、企画の狙いが伝わるか、商品やサービスの事実が正しいか、事前に除外すると決めた表現に当てはまらないかなど、案件に必要なものへ絞ります。
5. 採否を決め、理由を残す
AIクリエイティブディレクターは、生成された案から制作を進める候補を選びます。完成度の高さだけでなく、企画の狙い、ブランドが伝える内容、公開先の条件と照らして判断します。
採用した理由と差し戻した理由を短く記録すると、次の修正が具体的になります。「もっと良くする」ではなく、「商品より背景が目立つため、主役が先に目に入る構成へ直す」のように、直す箇所と目的を結び付けます。
6. 修正方針を決める
生成を繰り返しても、意図した結果に近づかないことがあります。商品の形や文字を正確に保てない場合は、生成を続けるだけでなく、レタッチ、撮影素材、CGなど別の方法も検討します。
AIで再生成する部分、人が描き直す部分、既存素材へ戻す部分を分けます。使ったモデルや設定を変える判断は生成担当や技術担当と相談しますが、どの方法なら企画と品質を守れるかを決めるのはディレクションの仕事です。
7. 公開前の確認項目をまとめる
最後に、企画、商品情報、権利、掲載先の仕様について、誰が何を確認するかを整理します。生成を担当した本人だけで完結させず、商品を理解する担当者、ブランド責任者、必要に応じて法務や広報が別の視点で確認できる体制を作ります。
セプテーニと電通ダイレクトのAIクリエイションラボは、AI Centric CDを中心に制作し、著作権と品質のリスクを考慮しながら実務へのAI活用を進めるとしています。ただし、最終的に誰が公開を承認するかは企業ごとの体制で決まります。AIクリエイティブディレクターが必ず最終承認者になるわけではありません。
通常のクリエイティブディレクターとの違い
通常のクリエイティブディレクターも、企画の方向を決め、チームをまとめ、完成品の品質に責任を持ちます。AIクリエイティブディレクターは、従来の仕事を置き換える肩書きではありません。AIを制作へ組み込むための判断が加わった役割です。
追加されるのは、使用するAIの特徴と限界を理解すること、入力できる素材を確認すること、人とAIの工程を分けること、生成案の比較と記録を設計することです。従来の企画力や表現の良し悪しを見極める力は、AIを使う制作でも必要です。
生成担当、クリエイティブテクノロジストとの違い

AIGC TIMES編集部が各社の公式情報を基に、三つの役割の違いを整理した図です。
肩書きは会社によって異なるため、業界全体で統一された職務定義があるわけではありません。以下は、セプテーニ、電通ダイレクト、博報堂、博報堂プロダクツ、電通デジタル、Adobe、Epsilonの公式情報を基に、実務上の違いが分かるようAIGC TIMES編集部が整理したものです。
生成担当は、指示を制作物へ変える
生成担当は、複数の生成AIを使い、画像や動画などの具体的な制作を進める専門職です。設定を調整し、再現しやすい手順を残し、必要に応じてレタッチャーやデザイナーと連携します。
博報堂プロダクツの「ジェネレーター」は、AIの知識と技術を備え、既存の制作職と協働する専門職です。単に指示どおりに手を動かす担当ではありません。企画全体の方向を決める役割とは重心が異なります。
クリエイティブテクノロジストは、技術を制作へ組み込む
クリエイティブテクノロジストは、企画の要件を検証し、制作に使える仕組みへ落とし込む役割です。Adobeは、企画を試作品にして実現できるかを確かめ、繰り返し制作するための仕組みや自動化の方法を設計し、複数の担当者をつなぐ職種として紹介しています。新しいツールの検証、試作、制作環境への導入、運用方法の整備などを通じて、技術面から制作を支えます。
AIクリエイティブディレクターは、その技術を採用するか、企画のどこで使うか、表現の方向が企画に合っているかを判断します。技術的な実現方法と、企画・表現の判断を分けることで、それぞれの専門性を生かせます。テクノロジスト側の職務範囲は、AIテクノロジーアドバイザーの役割で詳しく整理しています。
小さなチームでは誰が担うのか
専任のAIクリエイティブディレクターを置けない場合は、既存のクリエイティブディレクターやブランド担当者が責任者となり、生成担当や技術担当と分担します。重要なのは肩書きを新設することではなく、次の問いに答える人を決めることです。
- 今回、何を伝えるのか
- AIをどの工程で使うのか
- どの案を採用し、なぜ選ぶのか
- どこを人が修正するのか
- 誰が公開を承認するのか
一人が複数の役割を兼ねる場合でも、生成、確認、承認の順序は分けます。自分で作った案をそのまま公開せず、商品情報や権利を別の担当者が確認できる体制にすると、見落としを減らせます。ブランド担当者が生成AIの活用にどこまで関わるかは、ブランド担当者のAI役割設計にまとめています。
公式動画で見る「ジェネレーター」という専門職
博報堂プロダクツの公式動画では、「AI Craft Studio」と新職種「ジェネレーター」が紹介されています。AIクリエイティブディレクターと同じ肩書きではありませんが、AIを操作する人だけで制作を完結させず、ディレクター、ビデオグラファー、レタッチャーなどの専門職とチームを組む考え方が示されています。
動画:博報堂プロダクツ公式 Hakuhodo Product's Official 公式チャンネルより引用
社内で役割を決める前に、担当者ごとに必要な学習内容を整理したい場合は、無料のAI研修最適診断チェックリストを利用できます。
よくある質問
プロンプトが上手な人を任命すればよいですか?
プロンプトの作成は制作技術の一つですが、それだけでは企画の採否や、公開してよいかという最終判断を担えません。企画を説明し、表現の基準を示し、修正方針と承認手順を決められる人を責任者にします。
クリエイティブディレクター本人が生成する必要はありますか?
必須ではありません。ただし、AIで何ができ、どこで結果が安定しないかを理解するには、実際に試す経験が役立ちます。日常の生成作業は専門の担当者へ任せても、出力の特徴と限界は把握しておきます。
すべての案件にAIクリエイティブディレクターが必要ですか?
AIを使わない案件まで肩書きを置く必要はありません。複数のAIを使う、生成案が多い、外部パートナーが関わる、公開前の確認事項が多い案件では、判断をまとめる責任者を決めておくと、制作が進めやすくなります。
通常のクリエイティブディレクターとの違いは何ですか?
通常のクリエイティブディレクターも企画の方向を決めチームをまとめますが、AIクリエイティブディレクターにはAI固有の判断が加わります。使用するAIの特徴と限界を理解し、入力できる素材を確認し、人とAIの工程を分け、生成案の比較と記録を設計する仕事です。従来の企画力を置き換える肩書きではなく、AIを制作へ組み込むための責任範囲を追加した役割と捉えるのが実務に合います。
社内でAIクリエイティブディレクターを育てるにはどうしますか?
まず既存のクリエイティブディレクターや制作責任者に、生成AIを使った案件を小さな規模から任せます。そこで案の比較基準、採否の理由記録、公開前の確認項目を実務で作らせます。外部パートナーを迎える場合の見極めは、AIクリエイティブパートナー選定チェックリストや、AIクリエイティブ人材の採用基準を参考にすると、必要な観点を早く揃えられます。
本記事で確認した公式情報
- セプテーニ/電通ダイレクト「AIクリエイションラボ」を設立 — AI Centric CDの定義、制作体制、品質と著作権への対応
- 博報堂「ただの替え歌」で終わらせない。日清食品らしいコンテンツのつくり方 — 日清のどん兵衛「はいよろこんで 利き利きどん 篇」の企画、言葉、演出、構成を検討した制作事例
- 博報堂プロダクツ「AI Craft Studio」 — CD・プランナーと、AI専門職「ジェネレーター」の役割分担
- 電通デジタル「生成AI時代のコピー制作」 — AIが案を出し、人が選び、方向づける分担
- 電通デジタル「生成AI時代のプロ意識」 — 出力をそのまま採用せず、意図に合うまで修正するディレクション
- Adobe「The rise of the (new) Creative Technologist」 — 企画を試作、実装、自動化、制作システムへ変える役割
- Epsilon「Creative Technologist」 — アートディレクターと技術担当の分担例
- 博報堂プロダクツ公式動画「AI Craft Studio」 — AI専門職と既存の制作職が協働する体制
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