なぜ「対象者を先に決める」のか
ブランド企業で生成AIを使う仕事には、企画する人、素材を用意する人、生成や編集を行う人、商品情報を確認する人、公開を承認する人が関わります。一人がすべてを担当するとは限りません。撮影ディレクター、レタッチャー、コピーライター、ブランドマネージャー、法務担当、情報システム、外部制作パートナーが同じ案件に入ることも珍しくありません。
受講者を決めずに研修内容から選ぶと、操作に偏ったり、説明だけで終わったりします。まず、受講後に誰が何を判断するのかを決め、その役割に必要な内容を研修へ入れます。研修の目的を「使える人を増やす」ではなく「案件を最後まで通せる体制を作る」に置き換えると、対象者の顔ぶれが自然に決まります。
もう一つ、対象者を先に決める理由があります。生成AIは、制作フェーズだけでなく、企画・確認・公開・記録の各段階に関わります。制作だけを研修対象にすると、その前後の工程を担う人が「AIの出力をどう扱うか」を知らないまま案件を回すことになります。承認者が「この画像はAIで作ったのか、撮影素材か」を判別できない状態では、公開判断が止まります。

研修の目的、対象部署、必要な内容を10分野50問で確認するAIGC TIMESの無料チェックリスト。出典:AIGC TIMES「AI研修最適診断チェックリスト」
部署横断で確認したい5問
AIGC TIMESのチェックリストでは、社内体制と対象部署について次の5問を設けています。
- ブランド運営に関わる部署で、AI時代の前提を共有する必要があるか
- マーケティング、宣伝、商品企画、制作など複数部署が関わるか
- 部署によってAIを使える仕事が異なることを整理できているか
- 研修対象を個人ではなく部門横断で検討する必要があるか
- 受講後に、社内で知識や利用ルールを共有する必要があるか
「はい」が多い場合は、一つの部署だけで研修を完結させず、確認や承認を担う部署も含めて設計します。全員が同じ操作を長時間学ぶという意味ではありません。共通で押さえる前提と、役割で分ける実務を切り分けることが目的です。
反対に「いいえ」が並んだ場合は、まずは一つの部署でパイロットを行い、成果と課題を持ち寄る形へ進みます。全社研修を先に組んでも、実案件が無いまま知識だけが残る状態になりやすいためです。少人数のPoC(試験導入)から始める考え方は、小規模PoCで生成AIを試すブランド企業のはじめ方でも扱っています。
全員が共通して学ぶ内容
部署が違っても、次の内容は共通して知っておく必要があります。
- 画像生成、動画生成、生成後の編集の違い
- サービス名、モデル名、機能名の違い(ChatGPT、Midjourney、Google Veo、Runway、Adobe Fireflyなど)
- 自社素材を外部サービスへ入力する際の確認事項
- AIを使った箇所と、人が修正した箇所の記録方法
- 外部公開前に確認する担当者と手順
共通部分では、特定のサービスを使いこなすことより、社内で同じ言葉を使って相談できる状態を目指します。「画像を作った」だけでは、どのサービスのどのモデルで、どの入力素材から作ったのかが分かりません。「MidjourneyのV7で、社内撮影の商品カットを参照画像に入れて生成、Photoshopで背景を合成」まで書けると、後から誰が見ても再現と確認ができます。
用語の共通化は、研修の1日目に行うと後の議論が短くなります。生成、参照、学習、ファインチューニング、プロンプト、シード、ネガティブプロンプトなど、部署によって解釈が違いやすい語彙をまず揃えます。
経営層・責任者が学ぶ内容
経営層や部門責任者は、生成AIをどの仕事へ入れるのか、導入範囲と責任者を判断します。個別機能の細かな操作より、導入目的、対象部署、予算、PoCから本運用へ進む条件を扱います。
具体的には、次の4点を研修で決められる状態に持っていきます。
- どの案件・どのブランドから導入するか
- どの部署に判断権限を置くか
- 外部パートナーとの契約・データ取り扱いの原則
- 半年・一年後の評価軸(案件数、公開までの日数、修正回数、外注費など)
受講後に誰が社内ルールを更新し、どの段階で外部の専門家へ相談するのかも決めます。経営層が「使ってみて」とだけ伝えると、現場は自己判断で進め、後から法務や広報が個別対応に追われる形になりがちです。判断の起点を経営層に置くことが、部署横断の設計を機能させる前提になります。
ブランド・商品担当が学ぶ内容
ブランド担当や商品担当は、生成物が商品情報とブランドの方針に合っているかを確認します。商品形状、パッケージの文字、人物の扱い、コピーの内容、色再現、質感など、公開前に見る項目を具体化します。
研修では、採用できる案と使わない案を実際に比べ、判断理由を言葉にします。「何となく違う」で終わらせず、制作担当が修正できる説明へ変えます。たとえば「口紅の芯の角度が本物と5度違う」「ロゴの余白が規定より狭い」「モデルの手の指が6本になっている」など、修正指示に直せる言葉で残します。
もう一つ、ブランド担当が学ぶべき視点は「使わない判断」です。生成AIで作れても、ブランドの世界観に合わない、原材料の表現として不正確、モデルの多様性の観点で公開しない、といった判断が入ります。この判断基準は、ブランド企業の生成AI活用における品質ゲートの設計で扱う公開前チェックの土台にもなります。
制作・編集担当が学ぶ内容
制作・編集担当は、素材の準備、使用するサービスの選択、生成、編集、書き出し、記録を扱います。生成した案の数ではなく、採用できる案と人による修正を残します。
一つのサービスですべてを作る前提にせず、撮影、デザイン、CG、レタッチなど、既存の制作方法と組み合わせる判断も学びます。たとえば商品カットは撮影、背景は生成、テキスト部分は既存のデザインアセットから流用、といった組み合わせが実務では多くなります。
制作・編集担当の研修では、次の観点を必ず入れます。
- サービスごとの得意領域(写実的な商品写真、モデル画像、動画、ロゴなど)
- 有償プランと無償プランの機能差
- 商用利用条件と出力物の権利
- プロンプトと参照画像の再現性
- 生成後の編集で人が加える工程の記録
社内で編集まで担う体制へ移す動きも進んでいます。制作の内製化を検討する段階については、ブランド企業の生成AI活用における編集内製化の進め方で扱っています。
法務・調達・情報管理が学ぶ内容
法務、調達、情報管理の担当者は、利用規約、入力素材、個人情報、契約、制作記録の確認に関わります。ツールの操作そのものより、どの情報を受け取れば判断できるのかを整理します。
研修前に、社内で利用できるサービス、入力できない素材、例外時の相談先が決まっているかを確認します。未決定の項目は、研修後の課題として担当者と期限を置きます。
法務・調達・情報管理の研修では、次の項目を優先します。
- サービスごとの利用規約と出力物の権利
- 入力データの学習利用可否と、オプトアウト設定
- 社内データ・撮影素材・モデル契約の扱い
- 商標、意匠、肖像、著作物の使用範囲
- 生成物の公開時に必要な表記や記録
とくに、2026年に入ってから各国で議論が続く生成AI関連のガイドラインは、ブランド企業にも影響します。EU AI Actは2026年8月から一般目的AIモデルへの規制が段階的に適用され、日本国内では文化庁・経済産業省が生成AIと著作権に関する考え方を継続的に更新しています。研修の場では、最新の一次情報を担当者が自ら追える状態にしておくことが重要です。
部署横断の設計を一つの案件で確かめる
役割を決めるときは、架空の組織図だけで終わらせません。自社の仕事から一つの案件を選び、誰が企画し、誰が素材を用意し、誰が生成・編集し、誰が確認し、誰が公開を承認するかを並べます。
たとえば、新商品のティザー画像を1点作る案件を想定します。
- 企画:ブランドマネージャー(訴求メッセージと使用媒体を決める)
- 素材準備:商品担当(商品現物写真とパッケージ表記を用意)
- 生成:制作担当(Midjourneyで背景生成、Photoshopで合成)
- 記録:制作担当(プロンプト、参照画像、修正履歴を残す)
- 内容確認:ブランド担当・商品担当(表示、色、コピー)
- 法務確認:法務担当(利用規約、モデル契約、表記)
- 公開承認:部門責任者(媒体、掲載期間、想定リスク)
この分け方は、AIGC TIMESが研修を設計する際の整理です。会社によって部署名や承認者は異なるため、自社の実際の仕事へ置き換えて使います。役割を並べることで、抜けている確認者、二重になっている承認、後回しになっている記録が見えます。

共通理解、役割別の学習、受講後の実案件をつなぐ流れ。出典:AIGC TIMES
受講後の運用へつなぐ
研修は、受講した日で終わりません。受講後に、案件で判断を回すための3点を決めます。
- 定例(月次または隔週)で判断事例を持ち寄る場を作る
- 判断が難しかった案件を記録し、次回研修と社内マニュアルへ反映する
- ツールや規約の更新を確認する担当者と頻度を決める
生成AIサービスは月単位でモデル更新や規約変更があります。ChatGPTは2026年に入ってからも複数回モデルが刷新され、Google VeoやRunwayも新バージョンの投入が続いています。研修時点の内容で止めず、更新を追い続ける仕組みを持てるかどうかが、部署横断で決めた役割設計を活かせるかの分かれ目になります。ツール更新の追跡方法は、ブランド企業の生成AIツール監視と更新の運用でも扱っています。
外部パートナーと組む場合は、パートナー側の受講範囲と、自社側の判断範囲を最初に区分します。パートナー選定の観点は、ブランド企業の生成AI活用におけるパートナー選定の視点を参照してください。
よくある質問
Q1. 全社員が生成AI研修を受ける必要はありますか? A. 全員が同じ内容を受ける必要はありません。共通で押さえる前提(用語、公開前確認、記録方法)は全員、実務のツール操作や判断基準は役割別、という2段構えが実務的です。
Q2. 研修時間はどのくらいが目安ですか? A. 共通部分は2〜4時間、役割別は各3〜6時間が一つの目安です。ただし、案件で使いながら学ぶ運用(OJT)と組み合わせないと、研修だけでは判断できるようになりません。座学だけで完結させないことが前提です。
Q3. 外部の研修と内製の研修、どちらが良いですか? A. 全社共通の前提と、役割別の判断基準は外部研修が向きます。自社の商品・ブランド固有の判断基準や、社内で使うツール構成の説明は内製が向きます。両方を組み合わせる会社が増えています。
Q4. 制作担当がすでにAIを使っている場合、経営や法務の研修は必要ですか? A. 必要です。制作担当が生成物を作れても、公開判断や契約判断ができる人がいないと、案件が止まります。制作の先行事例をベースに、経営・ブランド・法務の判断軸を追加で整える形が現実的です。
Q5. 研修後、成果はどう測りますか? A. 案件数、公開までの日数、修正回数、外注費、社内相談件数などを、研修前後で比較します。加えて「判断が止まった案件」を減らせているかを確認します。数値だけでなく、社内で相談できる関係者が増えたかも重要な指標です。
まとめ
ブランド企業の生成AI研修は、制作担当だけ、または全社員一律のどちらかに決める必要はありません。まず、ブランド運営に関わる部署、部署ごとの仕事、受講後の共有方法を確認します。
基礎知識と公開前の考え方は共通で学び、経営、ブランド・商品、制作・編集、法務・調達・情報管理に必要な内容を分けます。最後に一つの実案件へ当てはめ、受講後の判断が回る状態まで持っていきます。ツールが変わっても持ち越せるのは、この役割設計と社内で共有された判断基準です。
社内チーム全体の設計については、ブランド企業の生成AI研修とチーム設計を、承認と記録の実務についてはブランド企業の生成AI活用における承認と記録を合わせて参照してください。
公式情報
- AIGC TIMES「AI研修最適診断チェックリスト」
- AIGC TIMESの無料メソッド一覧
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン」
- European Commission「AI Act」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」
- OpenAI「Enterprise privacy at OpenAI」
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