公式情報で確認する7項目
1. ブランド側の個別発表を探す
最初に確認するのは、ブランドのニュースルーム、公式サイト、公式YouTube、Instagram、Xです。検索結果に制作会社の記事が先に出てきても、ブランド自身が同じ内容を発表しているとは限りません。
記録するのは、企業やアカウントのトップページではなく、該当する発表や投稿の個別URLです。ブランド側の発表が見つからない場合は、「制作会社の発表のみ確認」と書き、制作会社の説明をブランドが確認した事実として扱いません。
海外事例では、どの国・地域のブランドサイトに掲載された情報かも残します。日本語の紹介記事だけで判断せず、原文の発表へ戻ります。
2. 発表日・公開日・解説日を分ける
一つの事例でも、映像の公開日、プレスリリースの配信日、制作会社による事例紹介の掲載日は異なることがあります。日付を一つにまとめると、どの時点の技術や提供条件で作られた事例なのかが分からなくなります。
事例台帳には、ブランドが発表した日、制作物が公開された日、制作会社が工程や実績を解説した日、編集部が公式情報を確認した日を分けて記録します。過去の事例を紹介するときは、当時使われたモデルや機能と、執筆時点で利用できる製品を混同しません。
3. 制作物と公開先を特定する
「生成AIを活用した」と書かれていても、対象がブランドフィルムなのか、商品画像なのか、企画段階の試作なのかで意味は変わります。まず、何を作り、どこで公開したのかを確認します。
映像ならブランドフィルム、広告、店頭映像、イベント上映、公式SNS用動画などに分けます。画像なら商品ページ、広告、公式SNS、社内提案用の試作など、確認できる公開先まで記録します。
静止画が一枚公開されているだけで、映像全体を生成AIで制作したとは書きません。確認できる制作物と公開範囲にとどめます。
4. 生成AIを使った工程を確認する
企画、絵コンテ、画像生成、動画生成、編集、VFX、音声など、制作には複数の工程があります。公式発表に「AIを使用」とだけ書かれている場合、完成物の見た目から工程を推測してはいけません。
公式情報に制作工程が示されていれば、その範囲を記録します。示されていない場合は「生成AIの使用は確認できるが、工程別の範囲は未公表」とします。
利用したサービス名とモデル名も分けます。サービス上で複数のモデルを選べる場合があるため、公式にモデル名まで書かれていない事例へ、編集部の推測で名称を足しません。
5. ブランド側と制作側の説明を照合する
ブランド側の発表には、企画の目的、公開内容、提携先が書かれることがあります。制作会社の事例紹介には、担当範囲、制作チーム、使用した技術、公開後の反響が載ることがあります。
役割の異なる二つの発表を分けて読むと、事実関係を整理しやすくなります。ブランド側では企画の主体、制作物、公開先、提携先を確認し、制作側では担当範囲、制作方法、使用技術、制作側が公表した結果を確認します。受賞、報道、外部評価は第三者情報として分けます。
制作会社が掲載した成果の数字は、ブランドも同じ数字を発表したとは限りません。どの主体が公表した情報なのかを明記します。
6. 数字は発表主体と条件を確認する
制作期間、参加人数、生成した案の数、再生数、表示回数、広告効果などが公表されている場合は、数字だけを抜き出しません。誰が、いつ、どの範囲を集計した数字なのかを確認します。
特に表示回数や再生数は、媒体、集計期間、有料配信の有無で意味が変わります。条件が示されていない数字は、その発表主体による公表値として記録し、効果を保証する材料には使いません。数字の出典が専門媒体だけにある場合は、ブランドまたは制作会社の発表と分けて「第三者報道」と記載します。
7. 自社で検討する問いを一つ決める
事例を集めるだけでは、自社の判断にはつながりません。読む前に、何を確認するための事例なのかを一つ決めます。
制作会社との役割分担を考えるなら、担当範囲と制作体制を見ます。外部公開までの手順を整えたいなら、ブランド側の発表内容と権利確認の記載を追います。小さく試す題材を探すなら、制作物と公開範囲を確認します。
他社の表現をまねるのではなく、企画、制作、確認、公開の進め方を自社へ持ち帰るために事例を使います。
Toys“R”UsのSora事例を公式情報で確かめる
Toys“R”Usは公式サイトの「Studios」ページで、OpenAIのSoraを使ったブランドフィルムをNative Foreignと制作したと説明しています。映像は、少年時代のチャールズ・ラザラスが、夢の中でキリンのジェフリーと出会う物語です。ブランド側のページからは、制作物、提携先、使用した技術、物語の概要を確認できます。
同社が2024年6月24日に配信したプレスリリースでは、映像をCannes Lions 2024で初公開したことも公表しています。制作を統括したのはKim Miller Olko、監督はNative ForeignのNik Kleverovです。
制作については、ほぼ全編をSoraで作り、一部の映像にVFXで修正を加え、Aaron Marshによるオリジナル音楽を使用したと説明しています。
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出典:Toys“R”Us「Studios」(ログイン不要の公開ページより引用)
Native Foreignの公式事例ページには、クライアントがToys“R”Us、提供したサービスが「Commercials」であることが記載されています。同社は、Soraを使ってブランドの起源を映像化した事例として紹介しています。
また、広告費をかけずに14億回を超えるインプレッションを獲得し、Google Trendsで1位になったと説明しています。いずれもNative Foreignが公表した結果であり、Toys“R”Usが同じ数字を発表したわけではありません。
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出典:Native Foreign「Toys“R”Us AI Film」(ログイン不要の公開ページより引用)
公式Instagramで制作の舞台裏を確認する
Native Foreignは公式Instagramで、この映像をどのように制作したかを紹介する舞台裏の投稿を公開しています。投稿文では、動画を生成し、その後に編集・仕上げを行った流れを紹介しています。
https://www.instagram.com/p/C_JJFvyS7r-/
公式サイトの事例ページだけでなく、制作会社の公式投稿まで確認すると、完成映像と制作側の説明を対応させやすくなります。ただし、この投稿から各カットの生成範囲、人が加えた修正の全工程、反響の集計条件まで確定することはできません。
二つの公式発表で確認できたこと
Toys“R”UsとNative Foreignの公式情報を照合すると、次の事実が分かります。
- Toys“R”Us StudiosがNative Foreignと提携し、Soraを使ったブランドフィルムを公開した
- Native Foreignがコマーシャル制作を担当し、ブランドの起源を題材にした
- 少年時代のチャールズ・ラザラスとジェフリーの出会いを映像で描いた
- Toys“R”Usの発表では、ほぼ全編をSoraで作り、一部の映像にVFXで修正を加え、オリジナル音楽を使用したと説明している
- Native Foreignは、広告費をかけずに14億回を超えるインプレッションを獲得し、Google Trendsで1位になったと公表している
公式情報だけでは確認できないこと
一方、公式ページだけでは、各カットで生成AIを使った範囲、人が加えた修正の全工程、インプレッションの集計期間と対象媒体、Google Trendsの検索語と地域までは確認できません。
分からない点を補わず、「確認できた事実」と「公表されていない内容」を分けるのが事例調査の基本です。これは、生成AIの使用を大きく見せすぎないためだけでなく、自社で必要な制作体制や確認項目を見誤らないためにも重要です。
ブランド企業の生成AI活用事例を確認した公式情報
- Toys“R”Us「Studios」:Toys“R”Us StudiosとNative Foreignの提携、Soraを使ったブランドフィルム、作品の概要
- Toys“R”Us配信のプレスリリース:2024年6月24日の発表日、制作クレジット、Cannes Lionsでの初公開、Sora、VFXによる修正、オリジナル音楽の使用
- Native Foreign「Toys“R”Us AI Film」:クライアント、サービス区分、制作側が公表した結果
- Native Foreign公式Instagramの舞台裏投稿:制作工程を紹介する個別投稿
- Native Foreign公式Vimeo「Toys“R”Us - First AI Brand Film」:制作会社が公開した完成映像
2026年時点で追加で確認すること
Toys“R”Us事例の公開時点で使われていたのはSoraの初期版です。OpenAIは2025年秋にSora 2を公開し、映像生成の解像度や物理挙動、権利表示の運用が更新されました。過去事例を紹介するときは、当時のモデル名と、いま同じ制作会社が使っているモデル名を分けて記録します。
また、AI生成コンテンツの表示に関する規則も2026年に整理が進みました。C2PAの来歴情報、各プラットフォームのAI表示、広告表示に関するガイドラインは、事例を掲載する際の付随情報として合わせて確認します。詳しくはAI生成コンテンツの表示ラベルで整理しています。
事例調査を自社の判断へつなげる
事例の確認は、単独では意味を持ちません。次のいずれかの工程と結び付けると、社内の意思決定材料になります。
- 自社のPoC設計に持ち込む場合は、生成AI活用の小さなPoCを合わせて読み、確認項目を絞ります
- 制作会社の選定材料にする場合は、AIクリエイティブのパートナー選定で照合項目を確認します
- 社内の承認フローに組み込む場合は、生成AIの承認記録で残す項目を決めます
- 公開前の品質確認に使う場合は、AIクリエイティブの品質ゲートで通過条件を整えます
よくある質問
Q1. ブランド側の発表が見つからない事例は、どう扱えばよいですか
制作会社の事例紹介だけを根拠に「ブランドが生成AIを採用した」と記録しません。台帳には「制作会社の発表のみ確認」と書き、ブランド側の再公表を待つか、ブランドに直接確認します。制作会社の説明を、ブランドが確認した事実として引用しません。
Q2. 使用したモデル名が公表されていない事例は、何と書けばよいですか
サービス名までしか公表されていない場合は、サービス名だけを記録します。「Runwayを使用」と発表があり、モデル名が書かれていなければ、Gen-3 AlphaやGen-4のような具体名を編集部の推測で足しません。工程についても同様に、公表されていない範囲は「未公表」と書きます。
Q3. 再生数やインプレッション数は、そのまま実績値として使ってよいですか
数字だけを抜き出さず、発表主体、集計期間、対象媒体、有料配信の有無を必ず添えます。制作会社が公表した数字を、ブランドの公式値として広げません。条件が示されていない数字は、その主体による公表値として記録し、効果保証の根拠には使いません。
Q4. 過去事例の紹介で、当時と現在のモデルを混同しないためには、どう書き分けますか
制作物の公開日と使用モデルをセットで書きます。「2024年公開・Sora(初期版)」のように時期とモデル名を並べ、記事執筆時点で利用できる後継モデルとは別に扱います。年表の形で並べると、モデルの更新履歴と事例が対応します。
Q5. 日本のブランド事例は、どこから確認するのが確実ですか
一次情報を優先します。ブランドの公式ニュースルーム、公式YouTube、Instagram、Xの個別投稿URLを起点にします。加えて、経済系メディアの記事は取材内容と広報発表を区別して読み、専門媒体だけが伝えている数字は「第三者報道」として台帳へ分けて残します。
次の判断に使える資料
AI技術活用 PoC導入調査書+カオスマップでは、16ブランドの公開事例を同じ項目で整理しています。事例を眺めるだけで終えず、自社のPoCで何を試し、何を記録するかを決める際に使えます。
より多くのブランド事例を横断で確認したい場合は、AIクリエイティブの導入事例集から関連事例を辿れます。
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