米国著作権が守るのは、作風ではなく作品に表れた表現
米国著作権局は、著作権が保護するのは、紙やデータファイルなどに記録された独創的な表現だと説明しています。絵画、写真、イラストは保護の対象になりますが、アイデアや制作方法そのものは対象になりません。
同局のAI報告書 Part 1も、個々の作品から切り離して、作風だけを著作権で保護するものではないと説明しています。「この作家らしい」と感じさせる特徴があっても、特定の作品に表れた構図や描写などを複製したとは限らないためです。
一方、AIで作った画像に、既存作品の保護対象となる表現が取り込まれていれば、従来の著作権が関係する可能性があります。作風の模倣と、既存作品の表現を複製する行為は、分けて考える必要があります。
米国著作権局が公開した次の動画では、AIと著作権の関係を、既存の著作権制度を前提に議論しています。作風そのものの扱いとは別に、作品のどの部分が著作権で保護されるのかを理解するための背景資料です。
動画:U.S. Copyright Office 公式チャンネルより引用
作風の模倣は、作品の複製とは別の問題を起こす
生成AIでは、特定の作家名や作品群を指示に含め、その作家を思わせる画像を作れる場合があります。生成された画像が元作品をそのまま複製していなくても、作家本人の作品だと誤解されたり、本人の仕事や作品販売と競合したりする可能性があります。
米国著作権局のAI報告書は、こうした作風の模倣によって、作家が依頼を受けたり作品を販売したりする機会が失われるという意見を取り上げています。その一方で、既存作品の具体的な表現を取り込んでいる場合は著作権、作家本人の関与や承認を誤認させる場合は商標法や不正競争法など、既存の制度が関係する可能性も示しています。
CREATOR Actは既存の制度を置き換えるものではなく、AIで特定の作家の作風を意図的にまねた画像を、別の権利で扱おうとする提案です。
CREATOR Actは何を対象にするのか
CREATOR Actは2026年6月2日、H.R.9112として米国下院へ提出され、同日に下院司法委員会へ付託されました。正式名称は「Creative Rights Ensuring Artists’ Technique and Originality are Reserved Act」です。

画像:イベット・クラーク議員の公式サイトより引用。出典:イベット・クラーク議員公式サイト
法案が提案しているのは、著作権や商標権とは別の連邦上の知的財産権です。視覚アーティスト本人、または書面による譲渡や相続などで権利を引き継いだ人・組織に、その作風をAIで意図的にまねた画像の商用利用や一般公開を許可する権利を認める内容です。
法案上の「作風の模倣」に当たるには、主に次の条件が必要です。
- 特定の視覚アーティストの名前や作品、特徴を、指示、設定、宣伝などで意図的に参照している
- その作家の作品に繰り返し見られ、本人と結び付けて認識されている視覚上の特徴を組み合わせている
- 作品の出所、関与、承認について見る人を誤解させる可能性がある、または作家本人の受注や作品販売に影響する可能性がある
- AIで全体または重要な部分を作った静止画である
また、特定作家の作風をまねる目的で設計し、その機能を明示して販売する製品やサービスも対象になり得ます。一方、幅広い用途に使う一般的なAIサービスは、似た画像を作れるというだけでは責任を問われません。特定の作家の作風をまねる目的で設定され、その機能を明示して販売していることが条件になります。
著作権とCREATOR Actは、守る対象と問題になる行為が違う
両者の違いは、次の4点で整理できます。
- 守る対象:著作権は、作品に表れた具体的な表現を保護します。CREATOR Actが提案する権利は、AIで特定の視覚アーティストの作風を意図的にまねた画像を対象にします。
- 問題になる行為:著作権では、保護対象となる表現の無断利用が問題になります。CREATOR Actでは、作風をまねたAI画像を、許可なく販売、ライセンス提供、一般公開する行為などを扱います。
- 対象となる制作物:著作権は絵画、写真、イラストなど幅広い作品に関係します。CREATOR Actの対象はAIで全体または重要な部分を作った静止画で、映像や音声は含まれません。
- 制度の状態:著作権は既存の制度です。CREATOR Actは米国下院へ提出され、司法委員会へ付託された段階の法案です。
この整理は、制度の違いを理解するためのものです。個別の制作物が侵害に当たるかどうかは、元作品との類似、利用目的、契約、公開地域なども含めて確認する必要があります。
AIを使った制作を一律に禁止する法案ではない
CREATOR Actは、AIを使った制作すべてを禁止する内容ではありません。特定の視覚アーティストと結び付かない一般的な作風、制作方法、技法、ジャンル、芸術運動や、特定作家の作風を狙わずに人が独自に制作した作品は対象外です。AIを使っていても、AIが作った部分が作品全体の重要な部分に当たらない場合は除外されます。
評論、批評、研究、教育、パロディー、風刺、報道などについても、一定の除外規定があります。ただし、出所や承認について見る人を誤解させることを目的に、作風をまねた画像を商用利用する場合などは、除外されない可能性があります。
なお、米国著作権局のAI報告書 Part 2が扱うのは、AIを使った作品に人の創作性がどこまで認められるかという問題です。AIで作った作品に著作権が認められるかという論点と、CREATOR Actが提案する作風模倣への責任は別です。
制作時に残したい記録
CREATOR Actの法案本文から、個別案件の記録項目が直接決まるわけではありません。ただし、作風の模倣が問題になる場面では、特定の作家を意図的に参照したか、AIが作品のどの部分を作ったかが重要になります。
そのため、AIを使った制作では、少なくとも次の内容を残しておくと、作品の成り立ちを後から説明しやすくなります。
- AIへ入力した指示と、参照した作家名・作品名の有無
- 使用した画像や資料と、その利用条件
- 使用したサービスやモデル
- AIが作った部分と、人が制作・修正した部分
- 出力を選んだ人と、公開を承認した人
これはCREATOR Actへの対応だけを目的とした一覧ではありません。著作権、契約、利用規約、社内の承認手順を確認する際にも役立つ制作記録です。
CREATOR Actはまだ成立していない
米国著作権局の法案一覧では、CREATOR Actは第119議会に提出された法案として掲載されています。執筆時点では成立した法律ではありません。

画像:米国著作権局の公式サイトより引用。出典:米国著作権局
今後の審議で、対象、条件、除外規定、救済措置が変わる可能性があります。作風が著作権で保護されるようになったわけでもありません。CREATOR Actは、既存の著作権とは別の権利を提案している段階です。
また、この法案だけで日本での判断が決まるわけではありません。日本の企業やクリエイターが参考にする場合は、米国の制度動向として追いながら、日本の著作権、契約、利用するサービスの規約を別に確認する必要があります。
CREATOR Actと米国著作権を確認できる公式情報
- CREATOR Actの公式発表 — 提出議員による法案の説明と提出理由
- H.R.9112法案本文 — 提案されている権利、対象、責任条件、除外規定、定義
- 米国著作権局「Legislative Developments」 — H.R.9112の提出状況
- 米国著作権局 AI報告書 Part 1 — 作風と著作権、既存制度との関係
- 米国著作権局「What is Copyright?」 — 米国著作権が保護する表現の基本
- 視覚・グラフィック作家向け著作権案内 — 視覚作品の保護と登録
- 米国著作権局 AI報告書 Part 2 — AIを使った作品と人の創作性
- 米国著作権局 AI報告書 Part 3 — 学習、作風の模倣、市場への影響
- 米国著作権局公式動画「The Relationship between AI and Copyright」 — AIと著作権の関係を扱う公式動画
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