第50条は提供者と利用者を分けている

EU AI Act第50条を読むときは、最初に「提供者」と「利用者」を分けます。

提供者は、画像や動画などを生成・加工するAIシステムを開発し、自社名で市場に出す事業者です。法令上の「deployer」は、個人的な利用を除き、自らの責任でAIシステムを使う個人や組織を指します。本記事では、そのうちAIで生成・加工したコンテンツを広告、Webサイト、SNS、記事などで公表する企業を中心に扱います。

欧州委員会は、AIに関する透明性義務が生じる場面を四つに整理しています。AIと対話している場合、AIで生成・加工したコンテンツに接する場合、感情認識や生体情報による分類を受ける場合、ディープフェイクまたは人の確認を経ていない公共性の高い文章に接する場合です。

EU AI Act第50条で透明性義務を確認する4つの場面

画像:欧州委員会「Quick Facts: Transparency rules for AI systems」の公開画面より引用(2026年7月31日、ログイン不要)

提供者には機械で読み取れる情報が求められる

生成AIシステムの提供者には、AIで生成・加工した音声、画像、動画、文章を機械で判別できるよう、出力に機械で読み取れる情報を付けることが求められます。画面に「AI生成」と表示するだけでなく、AIで生成・加工されたものだと機械で検出できる形式にする義務です。

ただし、第50条2項には例外があります。AIが通常の編集作業を補助するだけの場合や、利用者が入力したデータとその意味を大きく変えない場合は、この義務の対象外です。画像の明るさを整える処理と、実在する人物が話しているように見える動画を生成する処理を、同じ扱いにはしません。

企業が外部の生成AIサービスを使う場合、機械で読み取れる情報を付ける対応主体は、まずサービス提供者です。利用する企業は、サービス名と機能、生成・加工した範囲、受け取ったファイル、公開先を記録し、提供者が案内するマーキングや検出方法を確認します。公式情報で対応状況を確認できない場合は、独自に推測せず、提供者へ問い合わせます。

AIを業務で使う企業に表示が求められる場合

AIを業務で使う企業に明確な表示が求められる代表例は、ディープフェイクです。EU AI Actでは、実在する人物、物、場所、組織、出来事に似せた画像、音声、動画で、本物だと誤認させる可能性があるものを対象にしています。

公共性の高い話題について、AIで生成・加工した文章を公開する場合も原則として表示対象です。ただし、人が内容を確認し、編集責任を負う個人または組織が存在する場合は例外があります。生成AIを文章作成に使ったという事実だけで、企業のオウンドメディアやニュース記事が一律に同じ表示義務を負うわけではありません。

判断に必要なのは、生成AIの使用量ではなく、何を生成・加工したか、見る人が本物だと受け取る可能性があるか、人による確認と編集責任があるかです。「少しだけ使った」「人が最後に見た」といった説明だけでは、対象や例外を判断できません。

創作作品に含まれるディープフェイクはどう表示するのか

第50条4項が表示方法に配慮しているのは、ディープフェイクが明らかに芸術、創作、風刺、フィクションなどの作品や番組の一部を構成する場合です。この場合も表示義務がなくなるのではなく、作品の鑑賞を妨げない適切な方法で、AIによる生成・加工があることを知らせます。

これは、AIを使った映画、広告、ブランドフィルム、商品画像すべてに認められる包括的な例外ではありません。まず公開物が第50条4項のディープフェイクに当たるかを確認し、該当する場合に、作品の見せ方を損なわずに情報を示せる場所と方法を検討します。

欧州委員会は、第50条への対応を支援する任意の実務コードと、AI生成コンテンツを示す3種類のアイコンも公開しています。アイコンの使用は任意であり、それだけで法令遵守が認められるわけではありません。企業独自の表記を急いで決める前に、公式資料と配信先の仕様を照らし合わせます。

EU AI Act第50条の例外、実務コード、表示アイコンに関する欧州委員会の案内

画像:欧州委員会「Quick Facts: Transparency rules for AI systems」の公開画面より引用(2026年7月31日、ログイン不要)

日本企業が確認したい5つの項目

EU向けの広告、商品画像、映像、記事を扱う場合は、次の五つを一つの記録に残します。

  1. 公開地域:EU域内で公開・配信するか
  2. 自社の立場:AIシステムの提供者か、自らの責任で利用する事業者か
  3. AIを使った範囲:新しく生成したのか、既存素材を加工したのか
  4. 公開物の性質:ディープフェイクか、公共性の高い文章か、ディープフェイクが創作作品の一部に当たるか
  5. 確認と承認:誰が内容を確認し、最終的な編集責任を持つか

使用したサービス名だけでは足りません。入力した素材、採用した出力、人が加えた修正、書き出したデータ、公開先までつなげて記録すると、どの段階で画面上の表示やファイル内のマーキングを確認すべきかが分かります。

適用後に確認すること

透明性ルールはすでに適用されています。制作、法務、広報、配信の担当範囲が未整理であれば、表示文言だけを決めるのではなく、対象となるコンテンツの種類、AIを使った範囲、人による確認、編集責任を先に整理します。

欧州委員会の公式説明では、2026年8月2日より前に市場投入された生成AIシステムについて、機械で読み取れる印を付ける義務には2026年12月までの猶予があります。また、2026年8月2日より前に生成されたディープフェイクに、過去へさかのぼって表示を加える義務はないと案内されています。

適用日だけで判断せず、AIシステムが市場投入された日と、コンテンツを生成した日を分けて確認します。執筆時点で公開されている公式ガイドラインや実務コードも更新される可能性があるため、公開前には欧州委員会の案内を再確認してください。

欧州委員会の公式動画でAI Actの全体像を見る

欧州委員会のDigitalEU公式動画は、AI ActがAIの危険度に応じて規制内容を分けていることを短く説明しています。第50条だけを解説する動画ではありませんが、透明性ルールがAI Act全体のどこに位置するのかを理解する入口になります。

動画:DigitalEU 公式チャンネルより引用

参照した公式情報

本記事はEU AI Act第50条の公式情報を、制作実務の入口として整理したものです。個別案件への適用は、公開地域、契約、制作物の内容によって変わります。必要に応じて専門家へ確認してください。

制作記録を整えるための資料

AI編集社内導入ロードマップでは、生成AIを使う目的、検証範囲、確認体制、制作記録を社内で整える順番を確認できます。


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