FancyTechは3D商品モデルから映像を組み立てる
FancyTechの制作方法は、文章だけで映像全体を生成する方式ではありません。商品3Dモデルと、ブランドが用意したcreative briefを起点に、AIが動画内の動きや照明を制御するスクリプトを生成します。そのスクリプトを3D映像制作ソフトで動かし、商品の形や質感を見せる動画を作ります。商品3DモデルをFancyTechと顧客のどちらが用意するかは、公式発表では明示されていません。
LVMHの公式発表は、手作業では難しい動きも含めて、非常に高品質な映像を素早く生成できると説明しています。FancyTechの公式サイトでは、AI-3D動画のほか、AIモデル試着、商品シーン画像、商品詳細ページ、商品動画を提供範囲として掲げています。
「高品質」「素早く」は受賞を発表したLVMH側の説明です。制作時間、修正回数、従来撮影との費用差を示す比較データは、今回確認した公式発表にはありません。導入効果を見積もるときは、受賞文の表現をそのまま自社の削減率へ置き換えないようにします。
公開情報から分かる制作工程
LVMHが説明した中核工程は、商品3Dモデルとブランドのcreative briefを受け取り、AIがPythonコードの動画スクリプトを生成し、3D映像制作ソフトで動きと照明を制御する流れです。
| 工程 | 入力・処理 | 公開資料で確認できる範囲 |
|---|---|---|
| 1. 商品をデジタル化 | 商品3Dモデルを用意 | モデルの作成方法と精度基準は未開示 |
| 2. 表現を指定 | ブランドがcreative briefを渡す | briefの書式、承認者、入力項目は未開示 |
| 3. 動きと光をコード化 | AIがPythonの動画スクリプトを生成 | 動きと照明を制御するとLVMHが説明 |
| 4. 映像を生成 | 3D映像制作ソフトでスクリプトを実行 | 使用ソフト名、レンダリング条件は未開示 |
| 5. 確認・修正 | 商品とブランド表現を検品 | 必要な工程だが、FancyTechの具体的な承認フローは未開示 |
5段階目はブランド案件を公開するうえで編集部が必要と考える工程で、LVMHがFancyTechの標準フローとして公表した項目ではありません。公式工程と編集部の導入チェックを分けて扱います。
テキストだけで生成せず、商品3Dモデルを基準にする
ブランドの商品動画では、雰囲気の良さだけでは足りません。時計の文字盤、ジュエリーの石留め、ボトルのラベルなど、実物と異なる形が映れば公開できないからです。
FancyTechは商品3Dモデルを起点にするため、次のような案件と相性があります。
- 色や背景を変えながら、商品の形状を管理したい
- 同じ商品から縦型、横型、短尺など複数の映像を作りたい
- 実写では難しいカメラ移動や浮遊表現を使いたい
- ECの商品紹介と広告で素材を展開したい
一方で、3Dモデルの精度が低ければ完成映像も商品を正確に見せられません。生成AIだけで完結するのではなく、スキャン、3Dモデル制作、ブランド確認までが一つの工程になります。
3Dモデルで固定できること、固定できないこと
商品3Dモデルは、ボトル、時計、バッグなどの基本形状を映像の基準にできます。しかし、3Dモデルを使うだけで実物との一致が保証されるわけではありません。
- 形状: 寸法、曲面、部品の位置がモデルに正しく入っているか
- 質感: 金属、ガラス、革、布の反射が実物と合うか
- 表示: ロゴ、文字盤、ラベル、刻印が読めるか
- 光: 照明によって色や素材が別物に見えないか
- 動き: 浮遊や変形表現が商品仕様を誤認させないか
広告では、意図的な誇張と商品の誤表示を分ける必要があります。実写で不可能な動きが作れることは表現上の利点ですが、商品の機能まで実際以上に見せてよいという意味ではありません。
テキストから作る動画サービスとの違い
| 比較項目 | FancyTechの公式説明 | テキスト指示から画面全体を生成する方式 |
|---|---|---|
| 商品の基準 | 商品3Dモデル | 参照画像やpromptに依存 |
| 表現の入力 | creative brief | prompt、画像、動画など |
| 動き・照明 | AI生成のPythonスクリプトで制御 | 生成モデル内の制御機能を使う |
| 後工程 | 3D映像制作ソフトで生成 | サービスから動画を書き出し、編集ソフトで仕上げる場合が多い |
| 確認点 | 3Dモデル、材質、コード、render結果 | 被写体一貫性、prompt、モデル版、出力結果 |
右列は特定サービスの公式仕様ではなく、比較のための一般的な整理です。どちらが常に優れているという表ではありません。単発の雰囲気映像ならテキストや画像から作る方式、同じ商品の形を基準に多数の見せ方を作るなら3D起点を比較します。
LVMHが評価したのは「制作指示を映像へ変換する仕組み」
FancyTechは2024年5月23日、LVMH Innovation AwardのグランプリとImmersive Digital Experiences部門を受賞しました。LVMHの発表によると、この回には89か国から1,545社超が応募し、18社が最終候補に選ばれています。
第8回となる2024年のAwardは、6カテゴリーとData/AI/GenAIのSpecial Mentionでスタートアップを選びました。FancyTechはImmersive Digital Experiences部門を受賞したうえで、全体のGrand Prizeにも選ばれています。単に「AI動画ツール部門で1位」になったのではなく、ラグジュアリー産業向けの複数領域から選ばれた最終候補の中でGrand Prizeを得た事例です。
LVMHは、全受賞企業に認知拡大とメゾンとの協業機会を提供し、最終候補をMaison des Startupsの支援プログラムへ招くと説明しました。受賞は導入社数や売上を証明するものではありませんが、LVMHのメゾンと検証を進める入口になったことは確認できます。
評価されたのは、生成AIで映像を作れることだけではありません。ブランドの制作指示を、商品3Dモデルを基準に形状を管理しながら映像へ変換する工程が具体化されていた点です。受賞後はLVMH傘下のメゾンと協業する機会も提供されます。
公式資料だけでは分からないこと
FancyTechの記事では、受賞の大きさと製品の導入条件を分けます。今回の公式一次情報からは、次の項目を確定できません。
- 現行料金、最低契約額、制作本数ごとの単価
- 商品3DモデルをFancyTechが作るのか、顧客が用意するのか
- 使用する3D映像制作ソフトとrender engine
- AIが生成するコードのモデル名、学習データ、保存条件
- 商品データと生成物の所有、機密保持、学習除外
- 修正回数、納期、同時制作数、企業向けサポート
- 元候補に含まれていたHublotの短納期・大量制作実績
Hublotの定量実績はLVMHとFancyTechの公式ページで裏づけられなかったため、記事の実績には使いません。料金や権利も、受賞したことを理由に安全・導入可能と判断せず、提案書と契約で確認します。
どんな案件で比較候補になるか
FancyTechの方式は、商品そのものを中心にしながら、背景、カメラ、照明、動きを増やしたい案件で比較できます。
- 一つの商品から複数地域・複数縦横比の広告素材を作る
- 実写では難しい浮遊、分解、連続カメラ移動を使う
- 発売前の商品3Dデータから映像案を検討する
- ECの商品画像と動画で同じ3Dデータを使う
ただし、発売前データを入力できるかは契約次第です。公式ページから機密保持と学習除外を確認できない段階では、未公開CAD、設計図、製品仕様を送らない判断が必要です。
導入前に確認する4項目
FancyTechのような商品中心のAI動画を比較するときは、生成回数や料金だけでなく、次の4点を確認する必要があります。
- 商品3Dモデルを誰が作り、どの精度まで保証するか
- ロゴ、文字、素材の質感をどこまで再現できるか
- 出力前のブランド確認と修正を誰が担当するか
- 生成物、3Dデータ、学習データの権利を契約でどう扱うか
FancyTechの事例が示すのは、商品動画の生成では「何でも作れるモデル」より「商品3Dモデルを基準に、見せ方を増やせる工程」が評価されるということです。
比較時には、同じ商品、同じ尺、同じ縦横比、同じ修正回数で小さなテストを行います。完成映像だけでなく、3Dモデル準備、初稿、修正、最終書き出しまでに必要な時間と担当者を記録すると、従来撮影や別の生成方式と比較できます。