A.I. Ketchupは、AIの出力を広告の中心に据えた企画

公式動画は、画像生成AIがさまざまな言葉から画像を作る様子を見せた後、「ケチャップ」という入力へ移ります。すると、赤い容器や盾形に近いラベルなど、Heinzの商品を連想させる画像が表示されます。さらに絵画やタロットカードなどの表現を加えても、Heinzらしい特徴が残るという流れです。

動画に映る画像は、正確な商品写真ではありません。ラベルの文字は読めず、容器の形も崩れています。それでもHeinzの商品に見える点を、広告のメッセージに変えました。

DALL·E 2が生成した、Heinzの容器を思わせるケチャップ画像

公式動画に登場するDALL·E 2の生成画像。画像出典:Heinz公式YouTube「Heinz A.I. Ketchup」(動画の内容を説明するため、AIGC TIMES編集部が画面を引用)

広告主はKraft Heinz、制作はRethink

本件は、ブランドから依頼を受けて制作された広告キャンペーンです。The One Showの受賞ページには、クライアントとしてKraft Heinz、広告会社としてRethink/Torontoが記載されています。メディアエージェンシーやPR会社、編集、VFXなど、多数の担当者もクレジットされています。

同ページの説明によると、企画の課題は、長い歴史を持つHeinzを若い世代にも新鮮に感じてもらうことでした。2022年当時に画像生成AIが注目を集めていた状況を捉え、「ケチャップといえばHeinz」という同社の主張を、DALL·E 2の出力を使って示しています。

DALL·E 2で画像を作り、消費者から次の案を募った

制作の出発点は、DALL·E 2へ「ケチャップ」に関する言葉を入力することでした。公式動画では、入力する言葉を変えながら複数の画像を生成し、Heinzを思わせる特徴がどこまで残るかを見せています。

キャンペーンは、ブランド側が用意した画像だけでは終わりません。The One Showの受賞ページによると、HeinzはSNSで「次はどのようなケチャップを描かせたいか」という案を募り、寄せられた言葉から新しい画像を作りました。その後、限定ボトルやメタバース上の展示にも展開しています。Applied ArtsにはOut-of-Home Seriesとして受賞記録が残っており、屋外広告にも使われたことを確認できます。

異なる言葉から作られたケチャップ画像を並べた公式動画の場面

入力する言葉を変えて作ったケチャップ画像の一部。画像出典:Heinz公式YouTube「Heinz A.I. Ketchup」(動画の内容を説明するため、AIGC TIMES編集部が画面を引用)

AIが担ったのは画像生成、人が担ったのは広告としての判断

The One Showの受賞ページでは、キャンペーンのビジュアルをAIで生成したと説明しています。一方、何をAIへ入力するか、どの画像を使うか、どのコピーを添えるか、どの媒体へ出すかは、広告を作る側の判断です。

受賞ページに編集者、スタジオアーティスト、VFX担当者などのクレジットがあることからも、画像を出した後に人の制作工程が続いていたことは分かります。ただし、個々の画像をどこまで修正したのか、何枚から選んだのかは公表資料で確認できません。生成から公開までを「すべてAIが行った」と説明するのは不正確です。

公式動画で、企画の見せ方を確認する

56秒の公式動画では、画像生成AIの説明から始まり、入力する言葉が「ケチャップ」へ切り替わるとHeinzらしい画像が現れます。後半では、表現を変えても容器やラベルの特徴が残る様子を次々に映し、最後に広告コピーを提示します。生成画像の精度を比べる動画ではなく、複数の生成結果を一本の広告としてどう見せたかを確認できる映像です。

動画:Heinz 公式チャンネルより引用

受賞資料では8億5000万回を超える露出を報告

The One Showの受賞ページには、キャンペーンが米国とカナダから世界へ広がり、報道やSNSなどを通じて8億5000万回を超える露出を生んだと記載されています。広告出稿額と比べて、獲得した露出の価値は2,500%以上高く、SNSで得た反応の割合は過去のキャンペーンを38%上回ったという数字も示されています。

これらはKraft HeinzとRethink側のキャンペーン説明に基づく数字です。集計期間、対象媒体、比較したキャンペーンの範囲までは公開ページで確認できないため、第三者が監査した実績値とは分けて扱う必要があります。売上がどれだけ増えたかも、同ページには記載されていません。

自社で応用するなら、入力する言葉より先に企画を決める

この事例から分かるのは、生成AIへ商品名を入力すれば広告になる、ということではありません。Heinzは、長年使ってきた容器とラベルが、商品名を明記しなくても同社を連想させる点に着目しました。そのため、文字や形が崩れた生成画像も、企画の意図から外れませんでした。

自社で応用するなら、まず「何を見たときに自社ブランドだと分かるのか」を決めます。そのうえで、AIへ入力する言葉、採用する画像の基準、商品を誤認させる表現の扱い、公開前に人が確認する範囲を定めます。実際の商品を正確に見せる広告では、A.I. Ketchupと同じ判断基準は使えません。

AIGC TIMESの「ブランドコミュニケーション3.0 活用大全」では、AIクリエイティブをブランドのどの制作・公開接点へ使えるかを整理しています。

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公表資料からは分からないこと

確認できないのは、DALL·E 2で生成した画像の総数、すべての入力文、画像の採用基準、修正の有無と範囲、制作費、制作期間、売上への影響です。受賞ページが掲げる「AIだけで生成したビジュアルによる初のキャンペーン」という表現も、応募側の主張であり、本記事では世界初の事実として断定しません。

また、「AIもHeinzを選んだ」というコピーは、画像生成モデルの出力を広告として表現したものです。DALL·E 2の出力だけで、消費者の認知や購買意向を測ったことにはなりません。

Heinz A.I. Ketchupを確認した一次情報と参考資料


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