制作体制は6つの責任から決める
最初に決めたいのは役職名ではなく、制作の各段階で誰が判断するかです。AIクリエイティブでは、次の6つを明確にします。
| 役割 | 主な仕事 | 社内で決めること |
|---|---|---|
| 企画 | 目的、掲載先、対象者、必要な制作物を定める | 何のために、どこで使うか |
| 生成・編集 | 画像や動画の候補を作り、選定・修正する | 採用候補と修正内容 |
| 商品確認 | 商品名、仕様、表記、形状などを確かめる | 事実と実物に合っているか |
| 権利確認 | 入力素材、人物、音源、契約、利用条件を確認する | 公開できる根拠があるか |
| 最終承認 | 企画、商品、ブランド表現、掲載条件をまとめて判断する | どの版を公開するか |
| 制作記録 | 使用したサービス、素材、修正、確認者、承認版を残す | 後から経緯を確認できるか |
役割を決めるときは、部署名ではなく担当者名まで記載します。「マーケティング部が確認する」だけでは、締切直前になっても判断者が分かりません。担当者が不在のときに代わって判断する人も決めておくと、制作が止まりにくくなります。

図:工程ごとに担当と確認内容を決める(AIGC TIMES編集部制作)
企画担当は、作る目的と使える素材を決める
企画担当は、プロンプトを書く人ではありません。最初に決めるのは、制作物の目的、掲載先、対象者、必要なサイズや本数、公開日です。自社の商品写真やロゴなど、制作に使える素材もここで確認します。
企画の条件が曖昧なまま生成を始めると、候補は増えても採用できる案が残りません。「新商品の特長を説明するための画像」と「ブランドの印象を伝える画像」では、必要な情報も確認方法も異なります。生成を始める前に、完成条件を一文で共有できる状態にします。
生成・編集担当は、候補を作り、公開できる形へ仕上げる
生成・編集担当は、画像や動画を出力するだけでなく、候補を比較し、不要な案を外し、必要な修正を行います。使用したサービスやモデル、入力した素材、主な設定も記録します。
この担当者に、商品情報や権利、最終承認まで任せきらないようにします。制作を進めた本人は、意図した表現に注意が向きやすく、表記の誤りや確認漏れを見落とすことがあります。仕上がりを整える仕事と、公開してよいかを判断する仕事は分けて考えます。
商品確認と権利確認は、制作担当から分ける
商品確認では、商品名、仕様、色、形状、パッケージ表記、説明文などを、社内の正しい情報と照合します。画像として自然に見えても、実在する商品と異なる表現になっていれば、そのまま公開できません。商品担当や広報など、正しい情報を確認できる人を決めます。
権利確認では、入力素材を使える根拠、生成サービスの利用条件、人物や音源の扱い、外部制作会社との契約範囲を確認します。法務部門がすべての案件へ参加できない場合は、通常案件で制作担当が確認する項目と、法務へ相談する条件を先に分けておきます。
最終承認者と記録担当を決める
最終承認者は、個別の確認結果を受け取り、公開する版を一つに決めます。修正前の画像や未承認の動画が公開されないよう、承認済みファイルの保存場所とファイル名も統一します。
制作記録には、使用したサービスとモデル、入力素材、主な修正内容、商品・権利の確認者、承認日、公開した版を残します。記録の目的は書類を増やすことではありません。同じ条件で制作し直すときや、公開後に経緯を確認するときに、必要な情報をたどれるよう残します。
少人数でも、制作と確認は分けられる
担当者が少ない企業では、企画と最終承認をブランド責任者が兼ね、生成・編集と記録を制作担当が兼ねる方法があります。その場合も、商品確認や権利確認を制作担当者だけで完結させないようにします。
たとえば3人で進めるなら、次のように分けられます。
- ブランド責任者が企画と最終承認を担う
- 制作担当者が生成・編集と制作記録を担う
- 商品担当者が商品情報を確認し、必要な案件だけ法務へ相談する
大切なのは人数ではなく、一人だけで制作から公開までを決めないことです。兼任する場合も、「作った人」と「公開してよいと判断する人」を分けます。
社内に残す判断と、外部へ任せる専門作業
すべてを社内で制作する必要はありません。新しい制作方法の設計、複数サービスの比較、高度な画像・動画の仕上げ、初回の検証などは、必要に応じて外部の専門家へ依頼できます。
一方、制作の目的、商品情報、使える素材、ブランドとして採用する基準、最終承認は社内に残します。外部へ制作を依頼する場合も、誰が何を確認し、どの版を承認したかは自社で管理します。

図:社内に残す判断と外部へ依頼する専門作業(AIGC TIMES編集部制作)
内製か外注かを先に決めるのではなく、6つの役割を並べてから、社内で担う仕事と外部の支援が必要な仕事を分ける方が実務に合います。外部の専門性を使いながら、判断基準と制作記録は社内に残せます。
公式事例から分かる制作体制の組み方
サイバーエージェントの「AIクリエイティブBPO」は、独自のAI設計と専門チームの構築を組み合わせ、企業内にAIと人が連携する制作・運用体制をつくる方針を示しています。同ページで紹介されているベネッセの事例では、AIが教材イラストやDM用ビジュアルの初期案や構成案を作り、人が最終調整を担っています。
博報堂プロダクツの「AI Craft Studio」は、クリエイティブディレクターやプランナーに加え、生成AIを使った制作を担う専門職「ジェネレーター」を設けています。ジェネレーターだけで完結させず、ディレクター、ビデオグラファー、フォトグラファー、レタッチャーと連携し、グループのAIガバナンスや法務・著作権の体制も組み込んでいます。
アドビの公式資料では、同社のマーケティング組織が生成AIを導入する際の役割として、クリエイティブテクノロジスト、生成AIクリエイティブディレクター、コピーエディター、デザイナーなどを挙げています。また、Adobe GenStudioの公式ページでは、企画、制作、承認、素材管理を一連の仕組みとして扱っています。
3社の情報に共通するのは、AIの操作だけを独立した仕事にせず、企画、専門制作、確認、承認とつなげている点です。企業ごとに役職名は異なりますが、誰が作り、誰が確認し、誰が公開を決めるかを明確にする考え方は参考になります。
博報堂プロダクツ公式動画「AI Craft Studio」
動画:博報堂プロダクツ公式 Hakuhodo Product's Official 公式チャンネルより引用
公式動画では、「ジェネレーター」が単独で制作するのではなく、既存の制作職と連携する体制が紹介されています。AI専門職を既存の制作職とどう連携させるかを考える材料になります。
制作体制を決めるための確認表
初回の案件では、次の項目を一枚にまとめます。
- 制作物の目的、掲載先、公開日
- 企画を決める担当者
- 生成・編集を行う担当者または外部パートナー
- 商品情報を確認する担当者
- 権利確認を行う担当者と、法務へ相談する条件
- 最終承認者と代理承認者
- 承認済みファイルの保存場所
- 使用したサービス、モデル、素材、修正内容を記録する担当者
制作のたびに担当者を探すのではなく、通常案件の基本体制を決め、難しい案件だけ確認者を追加します。これにより、確認を省かずに制作を続けられます。
AIクリエイティブの制作体制は、人数や部署数で決まるものではありません。企画、生成・編集、商品確認、権利確認、最終承認、制作記録の6つを、責任の空白がないように割り当てることが出発点です。
関連するAIクリエイティブ体制の記事
制作体制を決めたあとに、隣接する判断を進めるための記事を用意しています。
- 生成AIの内製と外注はどう分ける?仕事単位の判断基準 — 6つの役割のうち、どの仕事を社内に残し、どの仕事を外部へ任せるかを一つずつ判定します。
- 生成AI公開までの承認フロー|案件別の判定手順 — 最終承認者と代理承認者を決めたあと、案件ごとにどの順で承認を回すかを整理します。
- AIクリエイティブ人材の採用基準|評価項目と面接質問 — 生成・編集担当や記録担当を新規採用する際の評価軸をまとめています。
- ブランド担当者のAI関連業務|個人としての役割 — 兼任体制でブランド責任者が担う判断範囲を、個人視点で細かく確認できます。
- 生成AIクリエイティブの制作工程の組み直し方 — 役割分担が決まったあとに、既存の制作工程をどこで組み直すかを扱います。
よくある質問
Q1. 6つの役割は必ず6人で分担しなければならないのですか。 6人での分担は必須ではありません。少人数の場合、企画と最終承認をブランド責任者が兼ね、生成・編集と制作記録を制作担当が兼ねる分け方が一般的です。守りたいのは人数ではなく、制作担当者一人だけで公開までを決めない構造です。
Q2. AIツールの操作担当だけを置けば、当面は回りますか。 短期的には回りますが、商品情報や権利の確認、最終承認、制作記録が担当者に集中し、確認漏れの原因になります。ツール操作担当を置く前に、6つの役割のうち誰が確認と承認を担うかを先に決めた方が、制作量が増えても判断基準を保てます。
Q3. 外部の制作会社へ依頼する場合、社内で残す判断はどこまでですか。 制作の目的、掲載先、対象者、商品情報、使える素材、ブランドとして採用する基準、最終承認は社内に残します。外部には、複数サービスの比較、高度な画像・動画の仕上げ、初回の検証などを依頼できます。承認済み版と制作記録の管理は自社側で行います。
Q4. 法務部門をすべての案件へ参加させることは難しいのですが、どうすればよいですか。 通常案件で制作担当が確認する項目と、法務へ相談する条件を先に分けておきます。人物・音源・第三者著作物の扱い、新しい生成サービスの初回利用、外部制作会社との新規契約などを、法務相談の対象として一覧化しておくと現実的です。
Q5. 制作記録には具体的に何を残せばよいですか。 使用したサービスとモデル、入力素材、主な修正内容、商品・権利の確認者と確認日、最終承認日、公開した版、承認済みファイルの保存場所を残します。目的は書類の増加ではなく、同条件で制作し直すときや、公開後に経緯を確認するときに情報をたどれるようにすることです。
AIクリエイティブの制作体制を確認した公式情報
- サイバーエージェント「AIクリエイティブBPO」
- 博報堂プロダクツ「AI Craft Studio」
- アドビ「コンセプトの検証からスケーラブルな生成AIソリューションへ」
- Adobe GenStudio
- 博報堂プロダクツ公式YouTube「AI Craft Studio」
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