承認フローの 7 段階全体像

企業で生成 AI 制作物を扱う承認は、次の 7 段階に分けます。段階を混ぜず、担当者と判定内容をそれぞれ決めておくのが基本です。

  1. 生成: 制作担当が指示文と入力素材を用意し、社内で認めたサービスで候補を出します
  2. 一次確認: 制作担当自身が企画との一致、明らかな崩れ、文字化けを確認します
  3. 二次確認: ブランド担当が商品情報、ロゴ、色、過去の発信との整合を確認します
  4. 三次確認(必要時): 法務・情報管理が権利、契約範囲、掲載表示を確認します
  5. 承認: 公開責任者が公開範囲、時期、掲載先を最終判定します
  6. 公開: 承認済みファイルと公開ファイルが同一かを確認して掲載します
  7. 記録: 使ったサービス、モデルのバージョン、指示文、修正履歴、承認者を残します

各段階で判定した結果は、次の段階へ引き継げる形で書き残します。「良さそう」「合っている」といった感想では、後で見返した担当者が判断根拠を追えません。段階を飛ばして「良さそうだから公開」まで進めると、公開後に問題が見つかったとき、どこで見落としたのかを特定できず、再発防止の記録も残りません。

各段階での担当者と判定内容

7 段階を「誰が何を見るか」で並べ直すと、次の 3 系統に整理できます。

制作担当は、生成と一次確認を受け持ちます。指示文、入力素材、生成結果、修正内容を作成し、企画と大きく外れていないかを最初に確認します。この段階で候補を絞り込み、二次確認へ回す最終案を選びます。

ブランド担当は、二次確認を受け持ちます。商品情報、色、ロゴ、パッケージ、過去の発信との整合、掲載先ごとの表現ルールを確認します。制作担当が気付きにくい「ブランドとして許容できるか」の判定はここで行います。

法務・情報管理は、三次確認と承認前チェックを受け持ちます。入力素材の権利、生成物の利用条件、契約範囲、必要な表示、個人情報の扱いを確認します。全案件を回すのではなく、条件に合致した案件だけを回します。

小さな組織では同じ人が複数の役割を兼ねる場合があります。その場合も、制作時の確認と公開時の確認は別の記録に分け、どの立場で判定したかを残します。「制作担当としての一次確認」と「ブランド担当としての二次確認」を、同じ人が同じ日に押印すると、後から見返したときにどちらの視点で判定したのかが分からなくなります。

案件重み別の承認フロー

すべての案件へ同じ手順を課すと、社内資料の試作でも公開広告と同じ確認時間がかかり、現場が回らなくなります。案件は次の 4 段階で重みを分けます。

重み 該当例 通す段階
A 社内資料、個人のメモ 生成 → 一次確認 → 記録
B 社内会議、部内共有資料 生成 → 一次 → 二次 → 記録
C 限定公開(顧客提案、限定 SNS) 生成 → 一次 → 二次 → 承認 → 公開 → 記録
D 全面公開(広告、商品ページ、公式 SNS) 7 段階すべて

判断に迷う案件は、上の重みで扱います。重み判定は制作着手前に行い、後から下げないのが原則です。公開直前に重みを下げると、必要な確認が飛ばされます。逆に、当初 A で始めた案件が途中で公開範囲を広げる場合は、重みを上げ、遡って必要な段階を追加します。

三次確認へ持ち上げる 5 つの条件

三次確認は全案件で行うものではなく、条件に合致した案件だけを回します。次の 5 条件のいずれかに当てはまる場合、法務・情報管理へ回します。

  1. 権利判断が必要: 第三者の素材、モデル契約、既存作品との類似が疑われる場合
  2. ブランド逸脱の可能性: 過去の発信、ブランドガイド、業界の自主基準から外れる恐れがある場合
  3. 商品情報の変更: 発売前の商品、価格、仕様、キャンペーン条件を含む場合
  4. 契約範囲を越える: サービスの利用規約、素材の許諾条件、掲載先の規約を越える可能性がある場合
  5. 消費者反応への懸念: 表現、対象、時期に配慮が必要と判定される場合

条件を「合致した案件だけ回す」と決めておかないと、全案件が法務へ流れて滞留します。条件を先に社内で合意し、該当項目を持たない案件は二次確認までで通します。三次確認は「念のため」で使う段階ではなく、上の 5 条件で使う段階だと社内で共有します。

差し戻し条件を先に決める 4 項目

差し戻しは「もう少し」「なんとなく違う」といった曖昧な表現では行わず、次の 4 項目のいずれかに当てはめて記録します。

  1. 商品情報の誤り: 形、色、価格、名称、パッケージが承認済み資料と一致しない
  2. 権利の未確認: 入力素材、利用サービス、掲載先の条件が確認できていない
  3. 記録の欠落: 指示文、参照素材、モデルのバージョン、確認者が残っていない
  4. 承認範囲の逸脱: 承認した案と公開ファイルの内容、掲載先、時期が違う

差し戻し理由は、修正指示と一緒にひな形へ記入します。「戻る段階(どこから確認し直すか)」まで含めて記録すると、次に同じ差し戻しが起きたときに時間を短縮できます。商品情報の誤りは二次確認へ戻し、権利の未確認は三次確認へ戻すなど、影響する範囲に合わせて戻る先を決めておくと、担当者が判断に迷いません。

稟議で承認フローを提示する

承認フローを稟議書へ載せるときは、7 段階、案件重み 4 段階、三次確認 5 条件、差し戻し 4 項目を、別紙ではなく本文に組み込みます。決裁者は「誰が何を確認するか」「例外条件は何か」「時間はどれくらいかかるか」を先に知りたいので、条件を前段に置き、詳細は付属資料に回します。

決裁者向けの要約、稟議書のひな形、案件重みの判定シート、差し戻しの記入例をまとめて用意したい場合は、有料調査「AI 技術活用 社内稟議決定版」(¥29,300 / 全 46 ページ)に稟議サンプル、決裁者向け要約、段階的な導入手順を収録しています。

稟議書そのものの書き方は別記事「生成 AI の稟議書はどう書く?企業導入を進める 9 つの項目」で、承認フローに必要な工数の見積もりは「生成 AI 承認にかかる工数の見積もり方」で扱っています。

承認フローが機能不全に陥る 4 パターン

承認フローを作っても、次の 4 パターンに当てはまると数ヶ月で運用が崩れます。設計時に対策を組み込みます。

担当者兼任: 制作担当と一次・二次確認を同じ人が受け持つと、自分の生成物を自分で承認する状態になります。少人数でも、一次と二次は別担当を割り当てるか、日を分けて確認します。

差し戻し理由が曖昧: 「イメージと違う」で戻すと、修正版でも同じ理由で戻ります。上の 4 項目のどこに当たるかを毎回記入します。

記録形式が担当者ごとに違う: ファイル名、保存場所、記入項目がばらばらだと、後から検索できず、監査や第三者確認で欠落が見つかります。ひな形と保存場所を先に社内で統一します。

上位判断の停滞: 三次確認や承認が特定の 1 人に集中すると、その人の休暇中に案件が止まります。代理承認者を先に決め、代理時の記録欄も用意しておきます。

承認フローに時間指標を組み込む

承認フローに「いつまでに」を書いておかないと、各段階で滞留します。段階ごとの目安時間を決め、超過時の対応も一緒に決めます。

  • 一次確認: 生成完了から 1 営業日以内
  • 二次確認: 一次完了から 2 営業日以内
  • 三次確認: 二次完了から 3 営業日以内
  • 承認: 三次完了から 1 営業日以内

目安を超えた場合は、担当者へ自動通知を送るか、代理承認者へ回します。時間指標を守れなかった案件は、通した後で必ず原因を記録し、次回の見直しに使います。急ぎ案件だけを別ルートで通す運用は、記録が抜けやすいので避けます。急ぎで通したい案件があるときは、案件重みを下げるのではなく、確認者を並列で動かして時間を縮めます。

承認フローを 6 ヶ月ごとに見直す 3 観点

承認フローは一度作って終わりではありません。次の 3 観点で 6 ヶ月ごとに見直します。

制作物量の変化: 月次の生成件数、確認件数、差し戻し件数を集計し、増減の理由を確認します。件数が想定を大きく超えた段階は、担当者の追加か手順の簡略化を検討します。逆に、想定より件数が少ない段階は、確認項目を減らせないかも合わせて見ます。

制度の変化: 経済産業省、文化庁、個人情報保護委員会などが出す文書、業界団体の自主基準、契約書のひな形に更新がないかを確認します。変更があった場合は、対応する確認項目を追加します。

社内リソースの変化: 担当者の異動、退職、育児休業、新規参加者の受け入れに合わせ、代理承認者、引き継ぎ手順、ひな形の場所を更新します。担当者が入れ替わった直後は、判定の粒度が変わりやすいので、見直しから 1 ヶ月間の差し戻し理由を追加で集計します。

見直し結果は社内文書として残し、更新日と変更点を記録します。前回からの差分が追えないと、担当者が変わったときに「なぜこの手順になったか」が分からなくなります。

よくある質問

承認フローを 1 度に全部門へ展開してよいですか

一気に広げると、差し戻し理由の書式や記録場所が部門ごとにずれ、後から統合できなくなります。1 部門で 3 ヶ月試し、ひな形と時間指標を固めてから他部門へ広げる進め方が現実的です。試した部門の担当者が、次の部門の立ち上げに助言する形にすると、社内で運用が早く定着します。

概念検証(PoC)段階でも 7 段階を全部通す必要はありますか

概念検証(PoC)は案件重み A または B で通し、承認と公開の段階は省きます。ただし記録は最初から残します。概念検証(PoC)で使った指示文と結果は、後で本番運用の判断材料になります。記録を省いた概念検証(PoC)は、成果が出ても本番運用へ移せません。

承認フローの見直しは誰が主導しますか

制作担当、ブランド担当、法務・情報管理から 1 名ずつ出す常設の担当を置くのが現実的です。特定部門だけで見直すと、他部門の実務と合わない改訂が入り、現場が使わなくなります。見直しの担当は、通常業務の一部として明記し、繁忙期に他業務へ吸収されない形にしておきます。

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