ブランド表現コードとは

ブランド表現コードは、制作物が自社らしいかを判断するための基準です。正確に伝えるべき商品情報、写真や言葉の選び方、企画ごとに変えてよい範囲を、言葉と実例で示します。

目的は、過去のデザインをそのまま再現することではありません。新しい企画を試しながらも、ブランドとして変えてはいけない部分を守ることです。守る対象は、視覚要素だけではありません。商品名の表記、成分や機能の言い方、モデル起用の条件、撮影と合成の境界など、公開時に判断を迷いやすい項目まで含めます。

生成AIを使う場面だけでなく、撮影、デザイン、編集、制作会社への依頼、公開前の承認にも使えます。制作方法や担当者が変わっても、関係者が同じ資料を見て判断できるようにします。

ブランド表現コードの確認項目

生成AIを使うブランド制作で確認したい項目を整理したAIGC TIMESの図。出典:AIGC TIMES

なぜ生成AIの導入で必要になるのか

生成AIを使うと、短時間で多くの案を作れます。一方、候補が増えるほど、何を採用するかを判断する仕事も増えます。担当者ひとりの感覚で捌けなくなる時期が、必ず訪れます。

「上質に」「親しみやすく」といった言葉だけでは、担当者や制作会社によって解釈が変わります。AIへ同じ言葉を入力しても、毎回同じ結果になるとは限りません。モデルが更新されれば、同じプロンプトでも出力の傾向が変わります。

そこで、制作物のどこを見て採用または不採用と判断したのかを言葉にします。候補を増やすことより、ブランドの目的に合う案を選び、必要な修正を伝えられることを優先します。制作会社や外部のAIアーティストへ依頼するときも、判断の基準を先に共有できるため、往復の回数が減ります。

ブランドガイドラインやプロンプトとの違い

ブランドガイドラインは、ロゴ、色、書体、名称など、ブランドの基本的な使用ルールをまとめたものです。ブランド表現コードは、それに置き換わる資料ではありません。既存のブランドガイドラインの上に重ねる、判断のためのレイヤーとして扱います。

表現コードでは、ガイドラインだけでは判断しにくい制作上の選択も扱います。たとえば、商品をどの程度大きく見せるのか、人物と商品を同じ画面に入れる場合にどちらを主役にするのか、コピーでどの程度強い表現を使うのか、といった内容です。撮影・合成・完全生成の境界をどこに置くかも、表現コード側で決めます。

プロンプトは、特定の画像や動画を生成・編集するための指示です。表現コードは、その指示で作った候補を採用するか、修正するか、使わないかを決める基準です。個別の指示文と、ブランド全体の判断基準を分けて管理します。プロンプトはあとから差し替わりますが、判断基準は差し替わらないという前提で運用します。

3つの資料の役割を短くまとめると、次のようになります。

  • ブランドガイドライン: ロゴ・色・書体・名称の使用ルール(変えない基本)
  • ブランド表現コード: 制作物のどこを見て採否を判断するかの基準(判断のレイヤー)
  • プロンプト: 個別の画像・動画・コピーを生成するための指示(差し替え前提)

ブランドらしさを判断できる言葉にする

最初に、現在のブランドを代表する公式素材を選びます。商品画像、公式サイト、店舗の写真、映像、パンフレットなどから、今後も判断の基準にしたいものを集めます。過去5年分などの期間を切ると、量が絞りやすくなります。

次に、その素材を採用している理由を言葉にします。「高級感がある」といった印象だけで終わらせず、商品情報が読み取れる、人物より商品を大きく見せる、コピーを短く抑えるなど、制作物のどこを見れば判断できるのかまで明確にします。判断可能な文とは、別の担当者が同じ素材を見て、同じ結論に至れる書き方のことです。

同じブランドでも、商品紹介と企業紹介では必要な表現が異なります。すべての制作物に同じ条件を当てはめず、共通して守る基準と、企画ごとに決める条件を分けます。共通の基準は少数(5〜10項目)に絞り、残りは企画側の判断に委ねるほうが、現場で回ります。

採用例と不採用例を残す

採用例だけでは、どのような表現が基準から外れるのか判断できません。不採用にした案と、その理由も残します。採用と不採用は、1対1〜3の比率で並べておくと、境界が分かりやすくなります。

たとえば、商品が実物と違って見える、背景が商品より目立つ、コピーが強すぎる、人物の見せ方が企画の意図と合わないといった理由です。「何となく違う」ではなく、直す場所が分かる言葉にします。修正依頼のときに、そのまま制作会社へ渡せる粒度まで具体化しておくと、次の往復が短くなります。

不採用例は失敗を責めるためのものではありません。次の担当者や外部パートナーが同じ問題を繰り返さないための判断材料です。個人名や案件名は伏せ、判断ポイントだけが伝わる形にまとめます。

社内へ残したい7項目

AIGC TIMESの「ブランドコミュニケーション3.0 統合パンフレット」では、AI技術の活用を個人の試行で終わらせず、次の7項目を社内へ残す考え方を示しています。

  1. ブランド表現コード — 制作物の採否と修正を判断する基準
  2. 生成物の確認基準 — 出力を公開可能な状態か点検する項目
  3. 承認フロー — 誰が、どの段階で、何を確認して承認するかの経路
  4. 自社が全ライセンスを持つブランド素材資産 — 学習・合成・再利用の権利が自社側に揃っている画像・動画・音声・3Dのライブラリ
  5. プロンプト検証ログ — 使ったモデル、プロンプト、パラメータ、出力の関係を追えるようにした記録
  6. 外部パートナーとの役割分担 — 発注側と受注側で、どこまでを誰が担うかの合意
  7. 品質確認の考え方 — 数値と目視の両方で、公開前後の品質を継続的に確認する運用

ブランド表現コードは、この7項目の一つです。残る6項目も、表現コードと並行して個別に整えます。表現コードだけで運用全体を賄うものではありません。7項目を並列に置くことで、片方だけが厚くなり、片方が抜け落ちる状態を避けます。

導入するときの4段階

AIGC TIMESでは、ブランドコミュニケーション3.0への移行を「学習」「PoC / プロジェクト開発」「社内技術導入」「設計・伴走」の4段階で整理しています。ブランド表現コードも、この4段階に沿って育てます。

  • 学習: 公式素材と現行のブランドガイドラインを読み合わせ、判断が分かれやすい項目を洗い出す段階。表現コードの雛形(採用理由の言語化、不採用例の書き方)を試作します
  • PoC / プロジェクト開発: 1商品または1企画に限定して、雛形の表現コードで制作を回します。実際に採否が分かれた箇所を記録し、雛形を補正します
  • 社内技術導入: 制作案件を横断して表現コードを使い、承認フロー・確認基準・素材資産・検証ログとの連携を組みます。担当者が交代しても運用が止まらない状態を作ります
  • 設計・伴走: 全ブランド・全カテゴリに広げ、四半期ごとに更新の会を持ちます。外部パートナーへの共有ルールも整えます

最初から全商品の基準を完成させる必要はありません。一つの商品や一つの制作物を選び、過去の公式素材、今回の企画、採用・不採用の判断を記録します。実際の制作で使ったあと、説明が足りなかった項目を直します。更新日と変更理由を残し、どの案件でどの版を使ったか分かるようにします。この進め方はAIGC TIMESの編集・導入方法として整理したものであり、法令や業界標準ではありません。

ブランドコミュニケーション3.0 統合パンフレット

ブランドコミュニケーション3.0の考え方と、社内へ残す項目をまとめたAIGC TIMESの統合パンフレット。出典:AIGC TIMES

業界別に押さえる観点

ブランドの業界によって、表現コードで重点的に扱う項目は変わります。次の5業界は、本メディア運営企業が実装で頻繁に扱う領域です。それぞれで見るポイントを固定しておくと、業界横断の資料を読むときの視点がぶれません。

  • ビューティー: 質感、ブランドカラー、モデル起用条件、成分と効能の言い方。@cosmeなどの口コミ経由で受け手の感度が高いため、AI表示と薬機法・景表法の範囲を毎回確認します
  • ファッション: シーズンローンチとルックブックで、フィッティングと素材再現が焦点。ランウェイ映像の再構成や、バーチャル・ドレッシングを使うかどうかを表現コード側で決めます
  • 食品: 景表法と食品表示法の制約が強く、シズル表現の合成範囲を法務と事前合意します。パッケージ、レシピ動画、POS販促の3系統で採否の基準を分けます
  • ホスピタリティ: 実在客室・実在料理とAI補正の境界を、公開前の承認基準として明文化します。OTA掲載写真と自社サイトで基準を揃えます
  • ライフスタイル: 家具、家電、日用品のEC商品写真と、ブランドストーリー動画で導入余地が大きい領域。写真同等性と実物との差分の許容範囲を決めます

いずれの業界でも、表現コード単独ではなく、承認フロー・素材資産・検証ログと組み合わせて運用します。表現コードは判断の言葉、承認フローは判断の経路、素材資産と検証ログは判断の証拠、という役割分担にすると整理しやすくなります。

更新と版管理の運用

ブランド表現コードは、一度作って終わる資料ではありません。制作を回すたびに、説明が足りなかった項目、境界が曖昧だった項目が見えてきます。四半期に1回、追記・削除・修正の会を持ちます。

版管理では、次の3点を必ず残します。

  • 更新日: いつ改定したか
  • 変更理由: なぜその項目を追加・削除・修正したか
  • 参照した案件: 判断の材料になった実案件(機密は伏せ、判断ポイントだけを残す)

外部の制作会社やAIアーティストへ渡す際は、機密事項を伏せた共有版を用意します。共有版と社内版で判断がずれないよう、共通部分と社内限定部分を明確に分けて管理します。生成AI事業者の利用規約・モデル更新履歴も、四半期の更新会でチェック対象に含めます。モデルが世代交代すると、同じプロンプトでも表現の傾向が変わるためです。

ブランド表現コードを社内の判断基準として残す

ブランド表現コードは、生成や編集から案の選定、修正、承認まで、ブランドらしさを判断するときに使う基準です。プロンプトの一覧ではなく、制作方法や担当者が変わっても使える社内の判断基準です。

公式素材を基に制作で守る条件を整理し、採用例と不採用例を一緒に残します。ブランド表現コードだけで完結させず、統合パンフレットに示した残り6項目も個別に整えることで、担当者が代わっても制作時の判断を引き継ぎやすくなります。

ブランドコミュニケーション3.0 統合パンフレットを見る

よくある質問

ブランド表現コードは既存のブランドガイドラインと別で作る必要がありますか

置き換える必要はありません。既存のブランドガイドラインを土台に、判断のレイヤーとして表現コードを重ねます。ロゴ・色・書体・名称のルールはガイドライン側に残し、採否の判断・合成の範囲・企画ごとに変える条件を表現コード側にまとめます。既存資料の項目名と重複しないよう、参照関係を巻頭に書いておくと運用しやすくなります。

何項目くらいから作り始めればよいですか

最初は5〜10項目に絞ります。全社の全カテゴリに使える万能な基準を狙うと、抽象度が上がり、判断に使えなくなります。1商品または1企画で採否が分かれた項目から書き出し、そこから広げます。項目数が20を超えたら、共通の基準と企画ごとの条件に分割します。

生成AIモデルが更新されるたびに書き直す必要がありますか

判断基準そのものは、モデルの更新で書き換えません。ただし、プロンプトと出力の関係は変わるため、プロンプト検証ログ側に更新日とモデル世代を記録します。四半期に1回、モデル世代交代を踏まえて表現コードで無理が出ている項目がないかを見直す会を設ければ、書き直しの頻度は最小に抑えられます。

制作会社やAIアーティストへはどこまで共有しますか

判断基準と採否例は共有します。機密事項(開発中の商品情報、未公開の企画、契約条件など)は伏せた共有版を用意します。共有版と社内版で判断がずれないよう、共通部分と社内限定部分を明確に分けて管理します。共有時にはNDAと利用範囲の合意書を先に交わす前提で運用します。

個人が試している段階で表現コードは作れますか

作れます。むしろ、個人の試行段階で採否の理由を言語化しておくと、社内に広げるときに再構築の手間が減ります。1商品・1企画の小さな範囲で、公式素材、採用理由、不採用理由の3点を記録するだけでも、後続担当者にとって十分な判断材料になります。個人の試行結果を社内へ引き継ぐ最初の資料として使うのがおすすめです。

参照した情報


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