追記する 8 セクション
生成AIを扱うために、既存ガイドラインへ追加する章立ては次の 8 セクションを軸にすると、抜けが少なくなります。
- 色 — 生成物が既存カラーパレットへ収まるかの判定基準
- トーン — 表現の統一(トーン・マナー)を生成物にも適用する基準
- キャラクター — 自社キャラクター・モデルの再現条件と禁止事項
- 画像 — 商品カット、背景、人物、ロゴを生成で扱う範囲
- コピー — 文章生成の許可範囲、事実確認の担当、表記統一
- モーション — 動画・アニメーションで許容する動き、速度、演出
- 音声 — ナレーション、BGM、環境音の生成条件と権利表記
- 生成専用ルール — 入力できる素材、記録項目、公開判定、責任者
既存ガイドラインに 8 章がすべて揃っていない場合もあります。無い章は「新設」ではなく「既存に近い章の末尾へ節として追加」する方が、担当者の参照導線が壊れません。たとえば「音声」章がなければ、動画・広告章の末尾に「音声素材の生成」節を差し込む形が扱いやすくなります。
8 セクションのうち、自社の利用範囲に該当しないものは、無理に埋めずに「本追記の対象外」と明記して残します。空欄で放置すると、後任の担当者が「未定」と誤読し、独自解釈を始める原因になります。
各セクションで追記する項目の例
各セクションへ書き足す項目は、抽象論ではなく「どこまでを許容し、どこから確認へ回すか」の線引きです。例を挙げます。
- 色:ブランドカラーの許容色差、白背景の階調、生成物での色被り時の対応
- トーン:主語人称、断定と提案の使い分け、禁止表現の一覧、丁寧語の基準
- キャラクター:正面・横顔・全身の参照カット、表情の可変範囲、衣装差し替えの可否
- 画像:商品ロゴが写る場合の余白、切れ・重なり禁止、人物と商品の位置関係
- コピー:数値・価格・成分表記の照合先、キャッチと本文の役割分担
- モーション:カット尺、被写体の変形限度、テロップ表示時間
- 音声:ナレーターの声質指定、合成音声を使うときの表記、権利元の記録
- 生成専用ルール:入力素材の権利確認手順、プロンプトの保存、モデルとバージョンの記録
同じ「NG」でも、「なぜ NG か」「代替案は何か」まで書くと、外部の制作担当も判断を再現できます。
参照素材ライブラリの整備 — 5 種類の素材
ガイドラインの文章だけでは判断が揃いません。生成物の判定に使う参照素材を、次の 5 種類で用意します。
- 承認済み商品カット — 正面・側面・寄せの原画
- 承認済みキービジュアル — 直近のキャンペーンで使用した完成物
- 色見本 — ブランドカラーの RGB/CMYK/HEX と、印刷・画面での見え方
- ロゴ運用の可否例 — 余白・最小サイズ・背景色ごとの正解と誤例
- 表現の統一例 — 良いコピー・避けたいコピーの並列サンプル
これらを一つのフォルダへまとめ、閲覧権限を明記します。参照素材そのものにも更新日を記録し、生成物の判定時に「どの版と照合したか」を残せる状態にします。
古い版の素材が現場に残ると、承認済みの新版と食い違う判定が生まれます。旧版はアーカイブフォルダへ移し、現行フォルダには最新版のみを置く運用にします。参照素材の差し替えが発生したときは、追記ガイドライン本体にも更新日を反映し、両者の版を揃えます。
追記の合意プロセス 5 段階
追記の内容は、担当者一人の判断で決めないほうが安全です。次の 5 段階で合意を取ります。
- 素案作成 — ブランド担当が既存ガイドラインを踏まえて素案を書く
- 制作担当レビュー — 実制作の現場感で運用可能性を確認する
- 法務レビュー — 権利・利用規約・表示義務の観点で確認する
- ブランド責任者承認 — 既存ブランド基準との整合を最終確認する
- 全社共有 — 関係部署へ配布し、質問受付の窓口を明示する
制作担当レビューを飛ばすと、現場で守れない基準が残ります。法務レビューを飛ばすと、公開後の差し替えが起きます。順番も省略も、慎重に検討します。
5 段階を通す期間は、追記の範囲によって幅があります。1 セクションの部分追記なら 2〜3 週間、8 セクション全体の初版整備なら 2〜3 か月を目安に、各段階のレビュー担当と締切日を先に置きます。締切がないまま素案を回すと、途中で議論が止まりやすくなります。
追記で失敗する 4 パターン
追記が形骸化するときは、たいてい次の 4 パターンです。
- 抽象論に終始する — 「配慮する」「意図をくむ」など、判定に使えない表現が並ぶ
- 例示が不足する — 良い例・悪い例が並列されず、担当者ごとに解釈が分かれる
- 更新責任が不在 — 誰がいつ見直すかが書かれておらず、資料が古びる
- 既存ルールと矛盾する — 追記が既存の色・表記・権利ルールと食い違い、現場が混乱する
追記を書き終えたら、既存ガイドラインの該当章を横に置き、矛盾の有無を一項目ずつ照合します。
稟議でガイドライン追記の予算を提示する
ガイドラインの追記には、素案作成、法務確認、参照素材の整備、社内説明の工数がかかります。稟議では、対象範囲、期間、責任者、期待できる効果を分けて示します。
有料調査「AI 技術活用 社内稟議決定版」(¥29,300 / 全 46 ページ)では、稟議書の書式、決裁者向け要約、社内合意の進め方を収録しています。ブランドガイドラインの改定案を稟議へ通す段階で参照できます。
良い追記と悪い追記の対比
言葉で書くだけでは伝わりにくいので、3 セクションで対比します。
- 色:悪い例「ブランドカラーに合わせる」/良い例「HEX #123456 との色差 ΔE 3.0 以内、印刷時の CMYK 換算値を併記」
- コピー:悪い例「ブランドらしく書く」/良い例「一人称は自社名を使い、二人称は『お客さま』。誇張表現の一覧に該当する語は使わない」
- 画像:悪い例「不自然な画像は避ける」/良い例「人物の指の本数、装飾品の連続性、影の方向を確認。1 点でも崩れたら不採用」
- モーション:悪い例「ブランドらしい動き」/良い例「1 カット 3〜5 秒、被写体の変形は輪郭内で完結、テロップは最低 1.5 秒表示」
- 音声:悪い例「聞き取りやすい声」/良い例「参照ナレーターの声質に近い合成音声を選び、権利元・モデル名・利用条件を制作記録へ残す」
判定できる形まで具体化して初めて、担当者間で採否が揃います。抽象語のまま残った項目は、時間を置いて必ず具体化の宿題として拾い直します。
更新頻度の目安
生成AIサービスと関係法令は、どちらも動きが続きます。ガイドラインの追記は、次の三つの契機で見直します。
- 四半期見直し — 利用サービス、モデル、参照素材の版を確認する
- 制度変化時 — 関係省庁の資料改定、業界団体の指針改定があった場合
- 事故時 — 誤表記、権利上の指摘、社内で採否が割れた案件が出た場合
見直しの都度、変更点、変更理由、影響範囲、承認者、施行日を追記履歴へ残します。版番号は本体ガイドラインと分けて管理し、「本体 v3.0 に対する追記 v1.2」といった形で対応関係が読める表記にします。旧版は削除せず、参照履歴として同じフォルダへ保管します。
外部制作会社への配布ルール — 4 論点
外部の制作会社やクリエイターへ発注する場合、配布時に次の 4 論点を明示します。
- 配布範囲 — 参照素材のうち、どのフォルダまで共有するか
- 二次利用 — 学習用途、社外実績公開、SNS 掲載の可否
- 記録提出 — 制作記録として提出してもらう項目と提出タイミング
- 質問窓口 — 判断に迷ったときの一次連絡先と、法務相談の条件
配布時に口頭合意で済ませず、発注書または覚書へ反映します。担当者が入れ替わっても運用が続きます。特に二次利用は、実績公開の可否、SNS への転載、他クライアントへの流用など、細かい論点が残りやすい領域です。発注時点で個別に確認し、双方の合意を書面に残します。
外部制作会社が別の生成AIサービスを併用する場合もあります。「自社が承認していないサービスを制作工程で使う場合は、事前申請を行う」というルールを配布ガイドラインへ明記しておくと、公開直前の差し替えを防げます。
ガイドライン追記を過剰にしない 3 原則
追記が厚くなりすぎると、誰も読まなくなります。次の 3 原則を意識します。
- 既存で判断できる項目は追記しない — 商品名の表記、ロゴ余白などは既存章を参照
- 例示を優先し、規則の数を絞る — 抽象的な規則より、良い例・悪い例の並列を厚くする
- 判定の閾値を明確にする — 「良い雰囲気」ではなく、数値・条件で線を引く
読み手が制作担当であることを忘れず、現場で 30 秒で参照できる密度に保ちます。長文の背景説明は別添資料へ切り出し、追記本体は判断表と例示で構成する方が、実運用で読み返される確率が上がります。
公式動画で著作権の考え方を確認する
ブランドガイドラインへ生成AI利用の項目を加える前に、社内で著作権の基本を揃えます。文化庁が公開している「令和6年度著作権セミナー『AIと著作権Ⅱ』」の動画は、入力素材と生成物の両面で著作権の考え方を確認できる公式資料です。
動画:公式チャンネルより引用
動画を確認した後は、自社が扱う素材、利用サービス、公開範囲に合わせて、権利確認の担当と相談窓口をガイドラインへ書き足します。
よくある質問
既存ガイドラインが古い場合、先に本体を更新すべきですか
追記と本体更新を同時に進めるより、追記側で「本体の次回改訂時に統合する」と明記し、生成AIの運用は先に開始する方が現実的です。統合予定日を追記の巻末へ残します。
追記の分量はどの程度が目安ですか
セクションによりますが、1 セクションあたり本文 1〜2 ページ、例示 1〜2 ページの合計 2〜4 ページに収めると、現場での参照が続きます。分量が増える場合は例示を別冊化します。
生成AIを一部業務でしか使わない場合も 8 セクション必要ですか
利用範囲が限定的であれば、対象外セクションは「本追記の対象外」と明記した上で外して構いません。将来、利用範囲を広げる時点で該当セクションを追加します。
追記の版番号は本体ガイドラインと揃えるべきですか
揃えずに分けます。本体は年単位の改訂が中心ですが、追記は生成AIサービスの機能変更や関係法令の動きに合わせて動きます。「本体 v3.0 に対する追記 v1.2」といった対応関係で管理し、次回の本体改訂時に統合します。
外部制作会社が独自に別の生成AIサービスを使ってよいですか
自社が承認していないサービスを制作工程で使う場合は、事前申請を必須にします。学習用途、生成物の権利、入力データの取り扱いを個別に確認し、書面で合意します。追記ガイドラインの外部配布版にも同じルールを載せ、公開直前の差し替えを防ぎます。
参照した情報
外部:
- 経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」 — 利用者・提供者・開発者ごとに整理された基本事項
- 経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き」 — AI利用契約と関係者間の責任整理
- 文化庁「AIと著作権について」 — 生成AIと著作権に関する考え方と関係者向けチェックリスト
- 文化庁「令和6年度著作権セミナー『AIと著作権Ⅱ』」 — 公式の講演映像と講義資料の公開元
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」 — 生成AIへの個人情報入力に関する公式注意喚起
内部:
- AIクリエイティブとは?意味や種類、企業での活用方法を分かりやすく解説 — 追記の対象となる制作物の全体像
- 生成AI活用の判断基準を社内につくる方法 — 追記した基準を採否判定へ落とし込む方法
- ブランドコミュニケーション 3.0 ガイド — 生成AI時代のブランド運用の考え方
- AI技術活用 社内稟議決定版 — 追記案を稟議へ通すときの書式と決裁者向け要約
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