1. 対象となる制作物
商品画像、広告クリエイティブ、SNS投稿、動画、音声、コピー、レイアウト、企画ラフなど、ガイドラインが扱う制作物を最初に示します。
一般業務の文章作成や社内検索まで含めると、ブランド制作に必要な判断がぼやけます。対象外も明記し、社内の生成AI利用ルール(情報セキュリティ・人事・営業支援など)と役割を分けます。ブランド制作向けのガイドラインは、公開される制作物の責任範囲に絞るほうが読まれます。
対象一覧は媒体別・工程別のどちらでも構いませんが、後で更新することを前提に、追加しやすい表形式にしておきます。
2. 使用できるサービスと確認方法
承認済みサービスの名称だけでなく、どの機能をどの条件で使えるかまで記載します。企業向け契約か個人契約か、入力データの学習利用の扱い、生成物の利用条件、管理者設定、提供地域、Content Credentials(コンテンツ・クレデンシャル)などの来歴情報の付与可否など、判断に使った公式ページのURLも残します。
生成AIのサービスや利用規約は変わります。固定リストを永久に使い回さず、確認日と次回見直し日を項目ごとに付けます。ツール比較の考え方はAI編集ツールの選び方で扱っています。
Adobe Firefly、Google Vids、Runway、Kling、Higgsfield など、複数のサービスを並行して評価する場合は、比較表と別に「今期の標準ツール」「試験導入中」「評価保留」を分けると、現場は迷いません。
3. 入力できる素材
自社が権利を管理する商品写真、ロゴ、ブランド要素、契約済みストック素材など、入力してよい素材を具体名で定義します。顧客情報、未発表商品、第三者の作品、許諾範囲が不明な人物写真、モデル契約に生成AI利用の同意が入っていない撮影データなどは、入力前に追加確認が必要な素材として分けて置きます。
「機密情報は入力禁止」という一行だけでは、現場では判断できません。素材の種類と、迷ったときに誰へ確認するかを併記します。
外部から預かった素材(クライアント支給、代理店経由、アーカイブ画像)は、契約書のどの条項に該当するかまで書き込んでおくと、担当者が交代しても運用が続きます。
4. AIを使ってよい工程
企画、ムードボード、ラフ、背景生成、バリエーション出し、レタッチ、動画補間、字幕生成、翻訳など、試してよい工程を工程名で示します。最終成果物に直接使う場合だけ追加承認が必要、という段階も設けられます。
工程を明示しておくと、担当者は小さな検証まで毎回申請せずに済み、AI編集の承認フローに沿って自分で進められる範囲が明確になります。
禁止範囲と同じくらい、自由に試せる範囲を書き切ることが、ガイドラインが現場で使われるかどうかを分けます。「原則禁止、例外で許可」ではなく、「原則許可、例外で追加確認」に反転できる工程を洗い出します。
5. 正確に保つブランド要素
商品形状、ロゴ、パッケージ、パントーンや16進の色指定、公式表記、価格、効能表現、店舗の内装、制服、契約モデルの容姿など、生成や編集で変えてはいけない要素を定義します。
「ブランドらしさ」のような抽象語だけでは、検品する側が判断できません。見比べられる基準画像、正式な表記ガイド、色指定、商品マスタと結び付けます。パッケージのロゴ位置、ボトルの比率、素材感などは、AIによる再解釈で崩れやすい要素です。
社内で守るブランド要素の定義は、AI編集ガイドやブランドAIの品質ゲートの記事に近い視点で、現物と結び付けます。
6. 人が確認する項目
AIの出力を採用する前に、人が確認する内容を決めます。商品・サービスの正確性、文字(誤字・不自然な文字)、人物(実在性・肖像)、権利、広告表現(薬機法・景表法など)、公開地域、ブランド表現など、確認項目ごとに担当を割り当てます。
人が関与したという事実だけで、品質が保証されるわけではありません。「誰が、何を、どの版で確認したか」まで残します。品質ゲートを通す前に、確認担当者がチェックリストに沿って埋める運用へ落とすと、後から監査が可能になります。
デザイナーだけ、法務だけ、代理店だけに寄せないことが重要です。役割ごとに一次確認と最終確認を分け、二重チェックを設計します。
7. 制作記録
使用したサービス、モデル、機能、入力素材、AIを使った工程、人が修正した工程、採用ファイル、承認日を記録します。
全プロンプトや全出力を永久保存する必要はありません。問い合わせ対応、再利用、更新、監査に必要な範囲を決め、保管期限も設定します。詳しくはAI生成物の制作記録にまとめています。
制作記録はガイドラインを守った証跡でもあり、次回の案件で判断を短縮する資産にもなります。過去案件のプロンプトや素材の再利用可否を、記録の項目に含めておきます。
8. 表示とContent Credentials
公開時のAI利用表示と、Content Credentials(コンテンツ・クレデンシャル)などの来歴情報を分けて扱います。見える表示は読者へ知らせる役割、来歴情報は制作・編集の経緯を確認する役割があります。用語の解説はContent Credentialsとはを参照してください。
法律、契約、プラットフォームの要件を一つにまとめず、公開地域と媒体ごとに確認します。EU、中国、韓国、日本ではAI表示の要求内容が異なります。海外配信を含む場合は生成AIクリエイティブのクロスボーダー・リリース確認表で地域別に整理します。
Content CredentialsはC2PA(シーツーピーエー)という国際規格に基づく来歴情報で、Adobe、Google、LinkedIn、Microsoftなどが対応を広げています。ただし、Content Credentialsが付与されていても、AI表示義務、著作権処理、入力素材の許諾を自動的に満たすわけではありません。三つは別レイヤーで管理します。
9. 制作会社・外部パートナーへの適用
社内だけでなく、制作会社、代理店、フリーランスへ何を共有し、何を納品してもらうかを定義します。承認済みツールの押し付けだけでなく、別の方法を提案してきた場合の確認手順も用意します。
契約では、入力素材、生成データ、プロンプト、編集可能データ、モデルの学習利用可否、再利用、保管、削除、クレジット、事故時の連絡窓口を、必要に応じて扱います。パートナーの選び方はAIクリエイティブ・パートナー確認表にチェック項目としてまとめています。
外部からの納品には、Content Credentialsや制作記録の同封を条件に加えると、公開後の説明責任を分担できます。ガイドラインは社内ルールと外注仕様書の両方で参照される想定で書きます。
10. 公開後の確認と更新
公開後に、表示、リンク、来歴情報、商品・人物の見え方を確認します。問題があった場合の差し替え、公開停止、問い合わせ対応、元データへの復帰手順を決めます。
ガイドライン自体も、案件の終了時に見直します。新しいツールが出たから改訂するのではなく、実際の制作で判断に迷った点や、不要だった確認項目を反映します。更新履歴と適用開始日を明記し、旧版で走っている案件との切り替え方も書きます。
「許可」「追加確認」「使用しない」の三段階で書く
ガイドラインを読みやすくするには、すべてを長い文章で説明せず、項目を三段階へ分けます。
- 許可:定めた条件内で担当者が進められる
- 追加確認:素材、工程、公開先に応じて責任者へ確認する
- 使用しない:現行の条件では扱わない
この分け方なら、制作チームは自分で進められる範囲をすぐ判断できます。追加確認が多すぎる項目は、次回の改訂で許可条件を具体化します。使用しない項目も理由と再検討時期を書いておくと、時間が経ったときに更新の判断が付きます。
最初の版は、一案件を終えられる長さでよい
初版からすべてのツール、制作物、地域、権利問題を網羅しようとすると、文書は長くなり、現場では読まれません。
まず一つの制作案件を選び、十項目を埋めます。企画から公開まで実際に使い、判断を助けなかった説明は削ります。ガイドラインを完成品として保管するのではなく、制作チームが迷わず試し、確認し、公開するための道具として更新し続けることが重要です。
社内で先に運用実績を作ってから、外部パートナーへ共有する順番のほうが、実効性のある文書が育ちます。
よくある質問
Q1. 生成AIのブランドガイドラインは、社内AI利用規程とは別に作るべきですか。 別建てを推奨します。社内AI利用規程は情報セキュリティ・人事・営業支援など横断的な範囲を扱い、ブランドガイドラインは公開される制作物の品質・権利・表示を扱います。参照関係は明記しつつ、責任範囲を分けます。
Q2. 十項目は必ず全部書く必要がありますか。 初版では扱う制作物と使うサービスを絞り、十項目のうち関係する範囲だけ埋める形で問題ありません。案件を回すごとに、必要な項目を追加します。
Q3. Content Credentialsを付与すればAI表示は不要ですか。 別の要件です。Content Credentialsは制作経緯を検証可能な形で残す来歴情報で、公開地域の法規制やプラットフォームが求めるAI利用表示とは役割が異なります。両方を分けて管理します。
Q4. 代理店や制作会社が使うツールも、こちらのガイドラインに合わせてもらうべきですか。 発注側の要件として提示するのは正当です。ただし、承認済みツールリストを押し付けるのではなく、パートナー側が同等以上の運用条件(学習利用不可、来歴情報付与、制作記録の同封など)を満たすなら別のツールを許容する条項を入れると、選択肢が広がります。
Q5. ガイドラインはどのくらいの頻度で更新すべきですか。 案件終了時のふり返りで、判断に迷った点と不要だった確認を反映する運用が現実的です。加えて、四半期に一度、承認済みサービスの規約変更を確認する時期を定めておくと、規約改定を見落としません。
関連する公式情報
- C2PA User Experience Guidance 2.2 — Content Credentialsの表示と確認方法
- C2PA Explainer 2.3 — C2PA規格の全体像
- Adobe Content Credentials overview — 対応製品と組織・制作者情報の扱い
- Adobe Enterprise asset settings — 組織でのContent Credentials設定
- Content Authenticity Initiative — Verify — 来歴情報の公式検証ツール
- Google「Making AI-generated content easier to identify」 — SynthIDとC2PAの拡張
- LinkedIn Content Credentials Help — ソーシャル配信面での表示
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