選定前に社内で決める 5 つの前提

パートナー候補へ声をかける前に、社内で 5 点を明文化します。曖昧なまま比較へ進むと、提案内容ではなく提案書の見栄えを比べることになります。

  1. 何を任せるか: 企画から関わってもらうのか、既存企画の生成作業のみか、素材編集や記録運用まで含めるか
  2. 制作物量: 月あたりの想定カット数、動画本数、稼働の集中する時期
  3. 予算範囲: 単発/継続のいずれで契約するか、年間の総額上限
  4. 内製化とのバランス: 完全外注か、伴走型か、社内移管の期限が決まっているか
  5. 契約期間: 単発、3 か月、半年、1 年、更新前提のいずれか

制作物量と予算範囲は、パートナー側の稼働配分を左右します。単価だけを提示して比較すると、稼働が集中する時期に対応が薄くなる契約構造になりがちです。前提の明文化は、パートナー選定の土台であると同時に、社内合意を先に固めておく作業でもあります。5 点のうち「何を任せるか」と「内製化とのバランス」の 2 点は、事業側とマーケティング部門の合意が前提です。ここが揃わないまま比較へ入ると、パートナー側から見て発注主体が誰かが不明瞭になり、提案の焦点も定まりません。

パートナーの類型 4 種

AI クリエイティブを担える事業者は、大きく 4 類型に分かれます。案件の性質と予算により、向くパートナーが変わります。

(a) 総合広告会社系

企画から媒体展開までを一貫して受注する体制です。ブランドの全体戦略と紐づけた制作を組みやすく、大企業の社内承認プロセスとの噛み合わせも安定します。単価は高く、AI 特化の生成ノウハウは外部スタジオへ再委託される場合もあります。誰が実作業を担うかは、契約前に必ず確認します。

(b) 映像プロダクション系

撮影・編集の実制作が背骨にあり、そこへ生成 AI を組み込む形で対応します。ライブアクションと AI 合成のハイブリッド案件、既存映像素材の再編集案件と相性が良い類型です。生成 AI 単独での大量制作には向かない場合があり、案件の主軸が撮影か生成かで向き不向きが分かれます。

(c) AI 特化型スタジオ

生成 AI 前提でチームを組んでいる事業者です。使用サービスの入れ替えが早く、複数モデルの比較検証を日常業務として持ちます。大量生成、短納期の試作、モデル選定を伴う企画で強みを発揮します。組織規模が小さく、大型キャンペーンの一括受注や、長期の常駐対応には限界があるケースが多い類型です。

(d) 個人・小規模ブティック

作家性を持つクリエイター、少人数のスタジオです。特定領域(ファッション、ビューティ、フード、CGI)への深い理解を武器にします。ブランドの世界観を尖らせたい案件に向き、代わりに稼働量、複数案件の並行、社内承認対応には限界があります。作家個人への依存度が高いため、契約期間中の稼働保証を明文化しておく必要があります。

評価する 7 つの観点

候補企業を比較する際は、次の 7 観点で同じ質問を全社へ投げ、回答を横並びで確認します。

  1. 制作能力: 企画・生成・選定・編集・納品のうち、自社で完結できる工程はどこか
  2. ブランド理解: 過去の類似ブランド案件の担当範囲、ブランドガイドラインの受け取り方
  3. 権利処理: 素材の権利元確認、生成物の帰属、モデル契約と AI 学習の関係
  4. ツール知見: 使用サービスとモデルの選定理由、比較検証の頻度、機能更新への追従
  5. ワークフロー: 発注から納品までの標準日程、社内確認と修正のサイクル
  6. 記録運用: 使用素材、指示文、採用案、修正内容、承認者の記録形式
  7. 料金構造: 単価、稼働配分、追加費用の発生条件、更新料の考え方

7 観点のうち、権利処理と記録運用は従来型の制作会社選定であまり重視されなかった論点です。生成 AI では、入力素材と生成物の紐付け、モデル契約と AI 利用条件、公開後の学習利用可否まで、契約に落とし込む項目が増えます。ここを口頭確認で済ませると、案件終了後に争点化します。

提案依頼書(RFP)に含める 6 項目

候補企業へ提案を依頼する提案依頼書(RFP: Request for Proposal)には、次の 6 項目を明記します。

  1. 目的: 制作物を通じて何を実現したいか、想定する掲載先と公開期間
  2. 対象業務: 依頼したい工程の範囲、社内が担う工程との切り分け
  3. 素材条件: 提供素材の権利範囲、契約で AI 学習利用を禁じている素材の扱い
  4. 判定基準: 採用・要修正・不採用の判断項目、承認者の階層
  5. 記録要件: 使用サービス、指示文、生成物、修正履歴の保存形式と保存期間
  6. 契約枠組み: 契約期間、単価と稼働配分、成果物の権利帰属、解約条件

素材条件と記録要件を先に明記すると、パートナーからの提案が現実的な運用条件に沿った内容へ揃います。提案依頼書に書かない条件は、契約後の追加交渉になり、そこで単価と稼働配分が動きます。分量は 3〜5 ページで足ります。背景説明を長く書くよりも、依頼工程と評価軸を明示することを優先します。

パートナー面談で確認する 5 つの実質質問

書類選考を通過した候補との面談では、資料に書かれない実務水準を確認します。次の 5 問を、必ず全候補へ同じ順序で投げます。

  1. 過去実績の詳細: この 1 事例で、どの工程を、誰が、何日間で担当しましたか
  2. 使用サービスの理由: 直近の案件で採用したサービスを、他候補ではなくこれに決めた理由は何ですか
  3. 権利処理事例: モデル契約や素材の権利で判断に迷った事例と、その解決手順を教えてください
  4. 記録運用: 半年前の案件について、使用素材と指示文をいま取り出せますか
  5. 変更対応: 制作途中で企画が変わった案件で、どのような対応をしましたか

具体事例で答えられるかが、実力と実績の一致を測る目安になります。抽象的な回答が続く場合、実務経験が浅いか、担当者以外が実作業を担っている可能性があります。過去作品を並べて見せられても、担当範囲が曖昧な事例は評価対象から外します。面談は 60〜90 分で足ります。事例の深掘りに時間を使い、会社紹介の説明は資料事前送付で省くと、実務水準の確認に集中できます。

使用ツール群への理解を確認する

パートナー面談では、使用サービスと生成モデルの選定理由を必ず問います。とはいえ、発注側が業界の主要サービスを把握していないと、回答の妥当性を判定できません。

有料調査「生成 AI クリエイティブ・プラットフォーム 17 社調査」(¥22,300 / 全 33 ページ)では、映像・画像・音声・編集領域で実務利用が進む 17 サービスの機能比較、料金体系、権利条件、想定用途を整理しています。面談前に発注側で読み込んでおくと、パートナーの回答をその場で検証できます。

パートナーが「主要 17 サービスのうち、案件目的に対してこの 3 つを選んだ理由」を説明できるかを確認します。1 サービスしか触れていない、比較検証を日常業務にしていない事業者は、案件目的が変わったときに提案の幅が狭くなります。発注側と受注側が同じサービス群を前提に話せると、面談の 60 分で確認できる論点が大きく増えます。

契約前に必ず読み込む 4 条項

契約書は、次の 4 条項を最優先で確認します。

  1. 権利帰属: 生成物、指示文、参照素材、派生物のそれぞれについて、発注側とパートナーのどちらに権利が帰属するか
  2. 学習データ扱い: 発注側から渡した素材と生成物を、パートナー側が AI モデルの学習や他案件へ再利用できるか
  3. 素材保管: 契約終了後、使用素材と生成物、指示文と修正履歴を、どの期間、どの形式で保管するか、返還請求の手順
  4. 解約条件: 中途解約時の費用計算、制作中素材の扱い、承認前案の権利

学習データ扱いは、契約書に明記がないと後日の再利用が争点になります。「学習に使わない」と口頭で確認しても、契約書に条項がなければ拘束力を持ちません。素材保管の期間と形式も、契約終了時に読み返すと解釈が分かれやすい条項です。押印前に法務と一緒に読む工程を、必ず入れます。

選定でよく起きる 4 つの失敗

同種の失敗が、発注側で繰り返し起きます。

  1. 実績偏重: 見た目が派手な過去作品を評価軸の中心に置き、担当範囲を確認しないまま発注する
  2. 価格偏重: 単価だけで比較し、稼働配分と追加費用の発生条件を確認しない
  3. 契約書未確認: 学習データ扱い、権利帰属、素材保管の条項を読まないまま押印する
  4. 内製との重複: 社内で対応可能な工程まで外注し、パートナー稼働が薄まる

過去作品は、パートナー本人の担当範囲、使用サービス、制作背景まで確かめなければ、実力の判定材料になりません。価格は、単価と稼働配分をセットで見なければ、稼働が集中する時期の対応品質が読めません。契約書は 4 条項だけでも、法務と共同で読む工程を先に組み込みます。内製との重複は、選定前に工程分担を決めておけば防げます。

よくある質問

候補は何社に絞ればよいですか

書類選考で 5〜8 社、面談は 3〜4 社が現実的な範囲です。多すぎると比較資料の作成負荷が発注側の稼働を圧迫し、少なすぎるとパートナー特性の違いが見えにくくなります。類型の異なる候補を最低 2 種類は残し、方針比較ができる状態で面談に入ります。

パートナー 1 社に集約すべきか、複数社と並行すべきですか

集約と並行のどちらが良いかは、制作物量と社内体制で決めます。継続案件で稼働が読める場合は 1 社集約で単価交渉と品質の安定を取り、案件性質が振れ幅の大きい場合は 2〜3 社を並行し、案件ごとに適性で振り分けます。並行運用時は、社内の窓口担当と記録形式を統一します。

契約後にパートナーの品質が落ちた場合はどう対処しますか

判定シートと制作記録を残していれば、どの工程で品質が変わったかを事実で示せます。担当者交代の有無、使用サービスの変更、稼働配分の変化を先に確認し、事実に基づき契約条件の見直しを提案します。感覚での指摘は、双方の関係を消耗させます。

発注側に AI クリエイティブの実務経験がなくても選定できますか

社内で決める 5 つの前提と RFP 6 項目を先に埋める工程は、実務経験がなくても着手できます。判断が難しくなるのは、面談での使用サービス選定理由の妥当性判定と、契約書の学習データ扱い条項の解釈です。前者は主要サービス群を整理した一次情報を、後者は法務部門または AI 実務に詳しい外部アドバイザーを、面談前に確保しておくと安全です。経験不足を前提にした選定プロセスの設計そのものが、初回案件では最重要の準備になります。

RFP は何社に配布するのが適切ですか

3〜5 社への配布が現実的です。10 社以上へ広げると、パートナー側が提案作業に時間を割かず、汎用資料の使い回しで返してくるため、比較の意味が薄れます。少なすぎると類型の違いが見えません。RFP を配布する前に、公開情報と過去実績で 8〜10 社まで絞り込み、そこから類型が偏らないように 3〜5 社を選ぶ二段階選定を推奨します。

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