4事例を同じ項目で比較

いずれも制作物が公開され、制作主体または担当者を確認できる案件です。ただし、AIを使った工程も公表されている結果も同じではありません。

ブランド・企業 制作物 AIを使った工程 人が担ったと確認できる仕事 公表された結果
Coca-Cola 2025年の年末向け映像2本 映像生成、カメラや動きの調整、地域別展開 制作の方針と演出は人が主導。音楽は人が演奏・歌唱 Silverside側の中核5人と20人超の専門家が協働。広告効果は本記事の参照資料では未公表
Toys“R”Us 創業者の少年時代を描くブランドフィルム 映像の大部分をSoraで生成 数百の候補から二十数カットを選定、VFX修正、作曲 数週間で制作。費用や広告効果は未公表
Carl’s Jr. パリス・ヒルトン出演CM 本人の分身や実写では作りにくい場面を生成 本人撮影、企画、配役、衣装、試作、修正、仕上げ 制作側は100人超が参加したと説明。広告効果は未公表
ゴルフダイジェスト・オンライン アプリ向け動画バナー 既存の静止画バナーをRay3で動画化 個別の担当範囲は公式発表で明記されていない 制作約1時間、インストール数が8倍増加。比較条件の一部は未公表

4件を「AI広告の成功例」と一括りにはできません。ブランドフィルムと動画バナーでは目的も規模も評価方法も違い、数字は各社の説明した条件に限って比較します。

Coca-Cola|定番CMを生成映像で作り直した

Coca-Colaは2025年11月、年末キャンペーン「Refresh Your Holidays」を発表しました。キャンペーンには実写作品も含まれますが、60秒の「Holidays Are Coming」と、米国向け90秒版「Holidays Are Coming, Fantastical」の2本には生成AIが使われています。制作を担当したのはSecret LevelとSilverside AIです。

ブランド側の公式発表では、カメラの向きや動き、映像内の物理表現、カットをまたぐ物語や登場する動物のつながりを調整したと説明しています。地域や視聴者に合わせた複数版の制作も行われました。

一方、Silversideの公式事例によると、同社側の中核チームは5人でしたが、完成までには20人を超える各分野の専門家が協働しています。音楽は人が演奏し、歌唱も人が担当しました。少人数が生成AIだけで完成させた広告ではありません。

Coca-Colaの事例から確認できるのは、長く使ってきたブランド資産を残しながら、生成映像の制作方法を更新したことです。使用したモデル、制作費、各カットの生成回数、案件全体の人数は公表されていません。個別工程の詳細はCoca-ColaとSilverside AIの制作事例で扱っています。

Toys“R”Us|創業者の物語をブランドフィルムにした

Toys“R”Usは2024年6月、創業者チャールズ・ラザラスの少年時代を描くブランドフィルムを公開しました。少年が、後にブランドの象徴となるキリンのジェフリーと夢の中で出会う物語です。Toys“R”Us StudiosとNative Foreignが共同で制作し、映像の大部分にOpenAIのSoraが使われました。

公式発表によると、制作期間は数週間です。数百の候補カットを作り、その中から二十数カットを選びました。採用した映像にもVFXによる修正を加え、Aaron Marsh氏が作曲した音楽を組み合わせています。

作品の題材は、創業者チャールズ・ラザラスの少年時代と、ブランドの象徴であるキリンのジェフリーです。公式発表から確認できるのは、この物語の映像制作にSoraを使い、採用したカットへVFXと音楽を加えたことです。企画と生成のどちらを先に決めたかは公表されていません。

次の動画は、Toys“R”Us公式チャンネルが公開した28秒のティーザーです。作品全編ではありません。

動画:Toys"R"Us 公式チャンネルより引用

制作費、全指示文、候補カットの選定基準、公開後の効果は公表されていません。確認できるのは、制作期間、候補カット数、採用カット数、Soraを使った範囲、VFXと音楽を加えたことです。制作会社側の発表を含む詳細はToys“R”UsのSoraブランドフィルム事例にまとめています。

Carl’s Jr.|本人撮影とAIの分身を組み合わせた

Carl’s Jr.は2026年2月、パリス・ヒルトンが出演する「Paris’ Famous Starwash」を公開しました。約20年前のCMを踏まえた企画で、本人が出演する場面と、生成AIで作られた複数の分身が登場します。

この作品は、本人を生成AIで置き換えた広告ではありません。制作を担当したNik Kleverov氏のメイキング動画では、本人を撮影したうえで、実写だけでは作りにくい場面へAIの分身を加えたと説明しています。

同氏のメイキング動画によると、制作には100人を超える人が参加しました。配役、衣装、カットごとの試作、修正、仕上げを重ねた制作です。Freepik、Luma AI、ElevenLabsを工程に組み込んだことも紹介されています。ただし、各サービスをどのカットへ使ったかは明らかにされていません。

次の動画は、Nik Kleverov氏が公開した1分22秒のメイキングです。

動画:Nik Kleverov 公式チャンネルより引用

この事例では、パリス・ヒルトン本人を撮影した映像と、生成AIで作った複数の分身や実写では撮りにくい場面が同じ作品に使われています。肖像や声に関する契約条件、制作費、広告効果は公表されていません。企画の背景と工程分担はCarl’s Jr.のパリス・ヒルトンAIキャンペーン事例で確認できます。

ゴルフダイジェスト・オンライン|既存バナーを動画化した

電通デジタルは2025年10月、ゴルフダイジェスト・オンラインと設立した「GDO AI-Lab」で、既存の静止画バナーをLuma AIの動画生成モデルRay3で動画化した事例を発表しました。対象はアプリのダウンロードを促す広告です。

この事例は、長い映像を一から企画したものではありません。すでに使っていた静止画をもとに複数の動画バナーを作り、実際に広告として配信しました。電通デジタルは、制作時間が約1時間になり、インストール数が8倍増加したと公表しています。

次の動画はLuma公式のRay3紹介動画です。ゴルフダイジェスト・オンラインの完成広告ではありません。

動画:Luma 公式チャンネルより引用

一方、制作約1時間に、素材整理、生成、選定、修正、書き出し、入稿のどこまでが含まれるかは公表されていません。広告費、配信期間、掲載面、対象者、比較した広告の条件も、今回参照した公式発表だけでは確定できません。

4事例の中で、制作時間と配信後の数字を確認できるのはこの事例です。ただし、ブランドフィルムの3件と同じ尺度で優劣を比べる数字ではありません。短い動画広告を既存素材から作り、配信結果まで測った事例として捉えるのが適切です。Ray3のローンチパートナーや他の初期採用事例は生成AIブランド事例の追跡方法で扱っています。

4事例で異なる、AIを使った工程

4件を並べると、AIクリエイティブの導入先は大きく三つに分かれます。

  1. 映像素材を生成する:Coca-ColaとToys“R”Usは、物語を構成する映像素材の制作に生成AIを使いました。
  2. 実写では難しい場面を加える:Carl’s Jr.は本人を撮影しながら、複数の分身や現実には撮りにくい場面を生成しました。
  3. 既存素材を別の形式へ展開する:ゴルフダイジェスト・オンラインは、静止画バナーを短い動画へ展開しました。

人が担当したと公表されている範囲は、事例ごとに異なります。Coca-Colaは制作方針と演出、音楽の演奏・歌唱を人が担ったと説明しています。Toys“R”Usでは候補カットの選定、VFX、作曲を確認できます。Carl’s Jr.では本人撮影と生成映像を組み合わせています。ゴルフダイジェスト・オンラインの発表は、個別の担当範囲を明らかにしていません。

また、事例によって公開情報の厚さが違います。制作工程が詳しくても広告効果が公表されていない案件があれば、配信結果は公表されていても制作の内訳が分からない案件もあります。確認できない項目を、別の事例の数字や一般論で補ってはいけません。

導入事例を自社の判断材料にする方法

事例を見るときは、ツール名より先に、次の5項目を確認します。

  • 何を作るための案件だったか
  • AIを使ったのは、企画、試作、素材生成、編集、展開のどこか
  • 人が選び、修正し、承認した範囲はどこか
  • 制作期間、費用、公開後の結果のうち、何が公表されているか
  • 公開情報だけでは分からない条件は何か

自社で最初に試す案件は、他社と同じ作品を再現するのではなく、確認できた工程を自社の素材と目的へ置き換えて選びます。既存素材を使った短い動画化から始めるのか、ブランドの物語を伝える映像を作るのかでは、必要な制作体制も確認項目も変わります。

今回掲載しなかった事例

生成AIを使ったと紹介されていても、ブランド側の公開確認、制作主体、完成作品、AIを使った工程のいずれかが確認できない案件は掲載していません。制作会社が実在ブランドを題材に作った自主制作や、ツール会社の作例も、ブランド企業による導入事例とは分けています。

本記事の4件は、すべての業界や制作方法を代表する一覧ではありません。公式情報をたどり、導入した工程を具体的に比較できる事例に限っています。導入判断そのものの整理はブランド企業のAIクリエイティブ早期導入、社内ルールの整備はブランド生成AIガイドラインを参照してください。

よくある質問

Q. AIクリエイティブの導入事例は、広告全体を生成AIで作った事例ですか。 本記事で扱う4件はいずれも異なります。映像素材の生成、実写では作りにくい場面の追加、既存素材の動画化のように、案件ごとに限られた工程だけへ生成AIが使われました。企画、演出、音楽、選定、修正は人が担当しています。

Q. ブランド企業の導入事例と、制作会社の自主制作はどう見分けますか。 ブランド側の公式チャネルからの発表があり、制作会社と完成作品を照合できる案件だけを導入事例として扱います。実在ブランドを題材にした制作会社の作例やツール会社のデモは、本記事では別扱いです。

Q. 4事例の広告効果を数字で比較できますか。 比較できません。制作時間と配信結果の両方が公表されているのはゴルフダイジェスト・オンラインの1件です。ほか3件はブランドフィルムであり、比較できる指標も測定条件も異なります。同じ尺度で優劣を並べるのは適切ではありません。

Q. 使用した生成AIモデルやツールは公表されていますか。 Toys“R”UsはSora、ゴルフダイジェスト・オンラインはRay3と公表しています。Carl’s Jr.はFreepik、Luma AI、ElevenLabsを工程へ組み込んだと担当者が説明しています。Coca-Colaは制作会社Silverside AIの関与を公表していますが、モデル名は明示していません。

Q. 自社で導入を検討する場合、事例のどこを見ればよいですか。 何を作る案件だったか、AIを使った工程はどこか、人が選び承認した範囲はどこか、公表されている数字と条件は何か、公開情報から確認できないことは何か。この5項目を、ツール名より先に整理します。


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